映画『審判』ジョン・ウィリアムズ監督インタビュー<後編>

『いちばん美しい夏』、『スターフィッシュホテル』、『佐渡テンペスト』のジョン・ウィリアムズ監督がフランツ・カフカの不条理文学『審判』を現代の東京を舞台に移して映画化。6月30日より渋谷・ユーロスペースで公開されます。100年以上前に書かれた作品を、なぜ今、映画化したのか? 本作に込めた思いをジョン・ウィリアムズ監督に伺いました。

フランツ・カフカとの出会いや映画化に至った経緯はこちら → <前編>

(ジョン・ウィリアムズ監督)

■まずは見て欲しい、考えるのはそれから

―本作は「ヨーロピアン・インディペンデント映画祭」に出品されましたが、パリでの反応はいかがでしたか?

僕は残念ながら現地には行けませんでしたが、つとむ(木村陽介を演じたにわつとむさん)が行ってくれました。反応が非常に良く、日本より笑いが起こったと聞いています。おそらく、モンティ・パイソンの文化が通じるのでしょう(笑)。

―日本の試写会ではどのような反応がありましたか?

上映前の挨拶で「ブラックユーモアがある」と言ったら、上映中に笑いが起きていました。他には、「この先何が起こるか分からないから怖い」「怖くて最後までぞっとしていた」など、「怖い」と言う人が多かったです。普通の映画は脚本執筆における構成やルール通りなので、先の展開がなんとなく読めたりするのですが、本作は原作を読んでいない人たちには先が読めない。何が出てくるか分からないし、「まさか」という構成にもなる。人によってはそれが耐えられないかもしれない。「先が見えない」というのも面白いのですが、難しいですね。もうちょっと馴染みのある構成がいいのかもしれないですが…。

『審判』(c) Carl Vanassche

―世代や文化によって感じ方も異なると思います。6月30日から上映が始まりますが、特にどんな世代に見て欲しいですか?

大人たちは理解してくれると思うので、とくに若い人たちに見て欲しいです。僕が教えている学生たちが見ている映画は、少女漫画の映画化やメジャーな映画が多い。映画ファンも少なくなってきています。音楽に関してもライブに行ったことのない人が多い。「ジャズ」という言葉を知っていても、それを聞いたことがなく、これがジャズ、これがブルースという違いが分からない。マスコミの情報に支配された日本で、ポピュラー文化しか知らないのは問題だと思っています。70年代、80年代まではもっとバラエティに富んでいた。選択肢の多い世の中のはずなのに、広告の影響があり、選んでいるものは同じ。ショッピングの選択肢も沢山あるように見えて実は同じものを選んでいる。私にとってみればそれは砂漠と同じこと。だからこそ、変わった映画として若い人たちに見て欲しい。好き嫌いはその人たちに任せるとして。

―ターゲティング広告の影響で類似したジャンルの情報ばかりが流れる世の中になっていると感じます。特に若者には、カテゴライズされた枠を超えていろんなジャンルに触れて欲しいですね。

そうですね。全員ではないですが、なんとなく学生の皆さんが、入学してすぐに「安定した大手企業に就職して早く落ち着いた社会人になりたい」と思っているのが気になります。僕は70年代のイギリス人なので、全部批判する、全部リジェクトする、パンク世代。多分、僕の周りの人たちはみんなそうだったと思うのですが、「安全な未来はつまらない。新しいことをやらないと」という雰囲気が盛んでした。大手企業に勤めるのは考えられなかったから、今の若者たちを見ると不思議ですね。学生たちの方が大人になっていると感じます。もちろん両親からの期待や社会からの期待があると思いますが、あまり保守的にならず、もう少し冒険してもよいのではないかと思います。旅をして知らない世界や文化に触れてみたり、自分のやりたいことについて考えてみたり、その後に自分の道を決めればよいのではないかなと。すぐに将来を決めるのではなく、大学にいる間に色々と考えて欲しいです。

―若い時に異文化やエンターテインメントに触れるのは素敵なことだと思います。映画を見るのも一つの刺激になりますし、監督がカフカに出会ったように、今まで知らなかったジャンルに触れることで人生を変える出会いにつながるかもしれないですね。

映画だけでなく、もう少し本を読んで欲しいな。僕にとって本を読むことは、魚が水の中にいるくらいすごく自然なこと。若者たちが本を読まないのはなぜなのか不思議です。学生たちはニュースも読んでいない。情報が全部フラットになっている社会の中で、要約された結論ばかりのニュースを受けとっている。なぜその事件が起きたのか、なぜその行動をとったのか、どんなふうに行ったのか、原因と結果を遡って想像したり解釈したりすることができない。『審判』は、それについても述べている映画だと思うのです。

―「原因があるから結果がある」と、セリフにも登場しますね。これから本作をご覧になる方へメッセージをお願いします。

メッセージ的な要素はすべて映画に含まれています。色々言ったので、「難しそう」とか「つまらなそう」といった印象を持ったかもしれないですが、そうした印象を持たずに、まずは普通に映画として見て欲しいです。決してつまらない映画ではないと思う。僕にとってはエンターテインメント。ブラックユーモアもあるし、サスペンス映画としても楽しみながら見られるので、まずは見て欲しい。意味合いを考えるのはその後で。映画館で見た人達がどんな反応をするのかとても楽しみです。

『審判』(c) Carl Vanassche

―最後に、今後の活動や実現したい野望を教えてください。

実は今、脚本が5本くらいたまっています(笑)。明日からでも撮影に入れるものがあるので、次の映画を撮りたいです。書いている脚本のほとんどは日本語で日本人のキャストを想定しています。日本語で撮る映画も好きなのですが、僕はイギリス人なので英語の映画を撮ってみたいとずっと思っています。日本のホラーが大好きで、純粋なエンターテインメントとして英語で書いたホラー映画があるので、次回作として撮りたいですね。5~6年に1本の撮影ペースは遅い方なので、2年に1本くらいのペースで撮っていければベストだと思います。

(撮影・インタビュー・文 出澤 由美子)


<PROFILE>
ジョン・ウィリアムズ(John Williams)
映画監督、脚本家、プロデューサー。上智大学外国語学部英語学科教授。英国に生まれ、1988年に来日。数々の日本の短編映画やドキュメンタリー、長編映画の脚本、監督、制作を行う。第1作目である『いちばん美しい夏』は、ハワイ国際映画祭でグランプリを獲得し、その他の国際映画祭でも多数の賞を受賞。佐藤浩市、木村多江主演の『スターフィッシュホテル』は、ルクセンブルグ国際映画祭でグランプリを獲得した。佐渡島を舞台とした第3作目『佐渡テンペスト』は、シェイクスピアの『テンペスト』をもとに、能などの日本の伝統芸能とロックを融合した作品で、シカゴ国際映画音楽祭にてグランプリを受賞。


『審判』

©100 Meter Films 2018 (c) Carl Vanassche

2018年6月30日(土)より 渋谷・ユーロスペースにて公開ほか全国順次

<あらすじ>
現代の東京。とあるマンションの一室で銀行員の木村陽介が目覚めると、見知らぬふたりの男が立っていた。逮捕を告げに来たと言うのだが罪状は不明。ふたりは逮捕状も見せないまま我が物顔で部屋中を物色し、木村を困惑させる。
次の日曜日。裁判所へと向かった木村は、郊外の古びた学校にたどり着く。体育館に一時的に設けられた「法廷」で判事と対面するが、話は全くかみ合わない。ずさんでいい加減な対応に戸惑い、苛立ちをあらわにするが、まともに審議もされないまま閉廷を言い渡される。身に覚えのない突然の逮捕によって、次第に追い詰められていく木村。
無実を訴えてあがけばあがくほど、蜘蛛の巣のような“システム”に絡みとられ、どんどん身動きができなくなっていく。ここから抜け出す方法はあるのか?救いを求めて奔走するものの、期待はことごとく外れていく。そして木村は、出口のないこの迷路の終焉に、気づき始めるのだった―。

<キャスト>
にわつとむ
常石梨乃 田邉淳一 工藤雄作
川上史津子 早川知子 関根愛 村田一朗 大宮イチ
坂東彌十郎(特別出演) 高橋長英 品川徹
監督・脚本 ジョン・ウィリアムズ
音楽 スワベック・コバレフスキ
原作 フランツ・カフカ「審判」
プロデューサー 高木祥衣 古川実咲子 塩崎祥平
撮影 早野嘉伸
照明 大久保礼司
録音 小川武
美術 中村三五
編集 稲川実希
音響効果 堀内みゆき
監督補 高田真幸
助監督 岩崎祐
ヘアメイク 西尾潤子 松本幸子
衣装 斎藤安津菜
制作担当 竹上俊一
人形創作・操演 グラシオブルオ
後援 上智大学ヨーロッパ研究所 公益財団法人日独協会
製作・配給 百米映画社
公式サイトはこちら http://shinpan-film.com/

2018-06-30 | Posted in NEWSComments Closed