12/2公開『青春夜話 Amazing Place』切通理作×黒木歩インタビュー

『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』などで知られる評論家・切通理作さんの初監督作品『青春夜話 Amazing Place』が、2017年12月2日(土)~12月15日(金)、新宿ケイズシネマにて公開されます。本作で初監督を務めた切通理作さんと撮影監督を務めた黒木歩さんに映像へのこだわりや撮影の様子を伺いました!

切通理作×黒木歩

(左)切通理作 (右)黒木歩

―試写を拝見して、日常のハッキリとした現実的な撮り方と、夢なのか現実なのか分からないような幻想的な撮り方をされているのが印象的でした。

黒木 恋愛上手な二人だったら幻想的じゃなくもっと生々しく描いていたと思います。あくまでも『青春夜話』の野島喬と青井深琴は、恋愛自体はそんなに得意ではなくて、多分、そこで起きていることのすべてが理想なんだと思うんです。「恋愛ってこういうものでしょ?」というのがお互いにあって、相手とのやり取りの中でそれがずれると怒っちゃう(笑)。

―自分の中の“恋愛シナリオ”みたいなものがある(笑)。

黒木 そうそう。その通りにいかないとつい感情的になって、それでケンカしちゃうっていう(笑)。恋愛下手な二人が、一夜のうちに自分の理想だけで恋愛を繰り広げるんだけど、幻想的なものと自分というものが行ったり来たりして、それはそれで素敵だなと思うんです。ナイーブな二人が出会って会話をして、すごくいい感じだったのにケンカになるっていうのは、すごくリアルだなと思うし。

―お互いに毒は吐くけれど、人前で本音を言えるタイプではないですよね。その二人が理想像だけでなくリアルな異性を知り、本音をぶつけ合うというのも、ある種の成長なのかなと思います。そうした不器用な面もうまく表現されていると思います。撮影にあたって何か工夫されたことはありますか?

切通 撮影に入る前に、黒木さんから「風景的にいきますか?フェチでいきますか?」と聞かれ、「日常的なシーンは風景的に撮りたいけど、男女が愛し合っているシーンはフェチで撮りたい」と答えたんです。そうしたら、女性向けのキス映像などを見せてくださって、こんなキス見たことないなと。キスってこんなに表現できるものなのかと。その時のカメラの感じやフェティッシュな感じが良くて、それに合わせて決めていった印象があります。

黒木 「女性が描くからこそのものが欲しい」と仰っていただいて、女性はわりとフェティッシュな部分が多いものをきれいだと解釈する人が多いので、絵的にきれいというよりは人物がきれいな方がいいなと。その方が見ていて印象深い。例えばドラマのラストで主人公のキスシーンがあると、普通のドラマも恋愛ドラマも、一回、バックから引きで撮って最後は全部ドアップなんです。多くの女性はそれで「はぁっ♡」となるわけですよ(笑)。男性から見たらフェティッシュでも、女性から見たら幻想的に見えたりするので、今回は描き方に気をつけていますね。

青春夜話 Amazing Place

© 映画 『青春夜話 Amazing Place』 公式

―ヒロイン・青井深琴を演じた深琴さんや山崎先生を演じた安部智凛さんの美しさを光で引き出していて、女性をきれいに撮っていらっしゃると感じました。

黒木 ありがとうございます。女性にも見ていただけるように細部までこだわって撮っています。

―撮影で使用したカメラにもこだわりがあったのですか?

黒木 これは私の好みなんですけど、マット感のある絵よりも立体感のある絵の方が好きで、映像とキャストの息づかいがリンクしていると萌えちゃうんです(笑)。平面上に繰り広げられるドラマよりも一眼レフ特有の光沢感の方がフェティッシュさを感じるし、なおかつドラマティックに見えるので、カメラも光沢感と立体感があって後ろのボケ感もきれいに撮れるものを選びました。

切通 スローモーションのシーンがあるのですが、そこは「絵が崩れないようにしたい」と仰っていましたよね。

黒木 そうですね。水しぶきも、ざらついたべたっとした感じではなく、ハイスピードカメラの特性を活かして、水の一粒一粒が浮き上がってくるように見せたかったんです。

切通 全体的に薄暗い中でストーリが展開していくから、月明かりだけがあるという光沢感もすごく表れていたと思います。

黒木 用務室のシーンも光がポンッと差し込んでいて、湯気の感じや乾いていない体の感じというか、光沢感も含めてきれいだなと思いました。安部さんは肌がすごくきれいで、光がきれいに乗る方なんです。雰囲気も素敵なんですが、「あの…」と言った時の顔がすごくきれいで。

切通 色調整で一緒に見ていた撮影・照明の田宮健彦さんが「安部ちゃん、いい!!」って仰ってましたね(笑)

黒木 深琴さんは月のような不思議なきれいさを持っていて、肌の質感もそうですが、目も髪の質感も光を浴びると変化して、別人なくらい印象が違うんですよ。光を浴びた時はリア充っぽい見た目なんですが、光を浴びていない時はオリジナリティのあるサブカルチャーっぽい。その変化が私はすごく好きで、それを強調したかったんです。どアップの時は幻想的な天使のように元気のある感じに映して、彼女のサブカルチャー・フェティッシュな部分を強調したいときは、目鼻立ちをはっきりさせるけどパキっとしすぎないように撮っています。

―確かに、深琴さんは光や角度によって表情が全然変わりますね。

黒木 そうなんです。現場で切通さんも「もうちょっと…何ミリ左を見てみたい!あ、それ、その角度!」みたいな(笑)。そうしたことも含めて色々考えながら撮っています。

青春夜話 Amazing Place

© 映画 『青春夜話 Amazing Place』 公式

―黒木さん目線の演出もあるそうですが。

切通 たとえばバーで2人が手を握るシーンの前に、伏線となる描写を黒木さんがたくみに入れる。セリフのない時にどう手を置くのかとか、だらんとさせてればいいのかとか、経験の少ない演じ手だとわからなくなったりする。黒木さんはその動作に意味を持たせるから、役者さんからしても演りやすい。

黒木 ちょっとした肌の触れ合いとか、会話のキャッチボールとか、仲の良さの度合いで相手に触れるか触れないかのドラマってあると思うんです。ちょっとしたワクワク感だったりハラハラする感じだったり、見ている人にそのドキドキ感を感じてもらいたなと思っています。

青春夜話 Amazing Place

© 映画 『青春夜話 Amazing Place』 公式

―撮影自体は順調に進みましたか?

黒木 最初に台本をいただいた時に、切通さんの「伝えたいこと」と「やりたいこと」がめいっぱい詰まっていたんです。まるで少年のようだなと思ったのが印象的でした。一つひとつのシーンが詩のようなイメージで、気の抜けない大人が書く素敵な詩集のようで、それを客観的に整理してつないでいくことが、きっと私の役目なんだろうなと。

切通 自分でお金を出しているので原理的にはいくらでもやり直しが可能なんです。でもそうするとたぶん永遠に完成しない。やるからには必ず仕上げるという意志で、最初に決めた撮影スケジュールの中で撮ろうと決めました。それを前提とした上で、監督としての知識も経験値もない僕が自分の中だけで「できる・できない」を組み立ててしまったら、多分、後悔が残るなって思ったんです。やり方が分からない時は口に出そうと。黒木さんに「こういう風に撮りたいんだけど」と相談すると、「じゃあこういう風に工夫しましょう」と、ほとんど解決してくれる。

黒木 どうにかするのが私の仕事なので(笑)。根本的に「切通さんが作りたいものも作る、そのためのお手伝いをする」という設定が私の中にあったので、切通さんが「こうしたい」と言ってくださったものを組み立てていくというのが私のスタンスだったんです。Vシネマの現場でもそうですが、その場で起こることが沢山あって、私はその時に瞬時に対応しなきゃいけない立場。変更があればカット割りを考えたり、キャストさんやスタッフさんに話して段取りを組んで手配したり。私はもう架け橋だったので。

切通 キャストとスタッフと監督の間をつないで、僕が何をやりたいのかということ引き出しながらやってくださったので、一番大変だったのは黒木さんだったんじゃないかと…。

黒木 (笑)。今回は「切通さんのお手伝い」というのが根本にあったので、私がやれることを精一杯やらせていただいた感じです。今は、制作の過程がどうだったかよりも、これから見てくださる方が「どう見てくれるのかな」というのが一番の楽しみです。

切通 「青春映画なんてウソ。自分の十代はキラキラしていなかった」という人って意外に多いと思うんですけど、そういう人こそ見てほしいです。これからでも遅くない。このひと晩があれば、その後一生生きていける。そんな体験を映画にして、50歳になって初めて監督する人間が贈ります。ぜひご覧になって下さい。

―最後に、お二人の今後の野望を教えてください。

切通 「第一回監督作品」と銘打つからには、二作目も撮るつもりですねって、知り合いの監督さんがニヤリとしながら言ってきたんです。でも今は、この「一作目」を、一人でも多くの人に見てもらいたいです。東京を皮切りに、僕も映画と一緒に旅をして、全国の皆さんに会いたい。

黒木 私はこれからも何者にも縛られず「誰か」や「何か」の架け橋になれる作品作りにかかわっていきたいですね。私は私自身が私の作品なので、今回は切通さんが描いた「青春夜話」と「私」が、「青春夜話」と「みなさん」の架け橋になればと願うばかりです。

[インタビュー・構成・文:出澤由美子]


<プロフィール>
切通理作(きりどおし りさく)
 監督・脚本
1964年東京杉並生まれ。和光大学人文学部文学科卒業。編集者を経て、文筆業に。映画、コミック、音楽、文学、社会問題をクロスオーバーした批評活動を行う。2001年、『宮崎駿の<世界>』(筑摩書房)でサントリー学芸賞受賞。著書『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』『怪獣少年の<復讐>~70年代怪獣ブームの光と影』『本多猪四郎 無冠の巨匠』(洋泉社)『山田洋次の<世界>』(筑摩書房)『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)『情緒論 セカイをそのまま見るということ』(春秋社)『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)『失恋論』(角川書店)ほか。「キネマ旬報」で連載『ピンク映画時評』を1995年より継続中。

黒木歩(くろぎ あゆみ) 撮影監督
1981年9月3日宮崎県生まれ。「宮村恋」の名で2010年よりAV女優として人妻役で人気。14年から本名の黒木歩を名乗り、女優を続けながらAVやMVの監督、短編映画やメイキング映像の撮影、音楽活動(「音楽」の欄参照)などマルチで活躍。2015年7月1日より2016年4月27日まで、スポーツニッポンにて毎週 水曜日に性の悩みの相談コラム「黒木歩のたたなくてもいいじゃない」を連載。監督作品 『性魔術調教 新妻快楽儀式』(2012)『コスプレBL 虎×兎』(2013)ほか。出演作品『レイプゾンビ2&3 LUST OF THE DEAD アキバ帝国の逆襲』(2013)『イノセント・ノワール』(2013)『最近、蝶々は…』(2014)『夜王誕生‐真黒(くろ)の太陽』(2014)『恋愛死体』(2015)ほか多数


YABO本誌では、撮影現場レポートやキャストの深琴さん、須森隆文さん、飯島大介さんのインタビューを掲載しています。ぜひこちらもあわせてお読みください!

▶︎YABO BACK NUMBER

深琴さんインタビュー
須森隆文さんインタビュー
飯島大介さんインタビュー
切通理作さんインタビュー
撮影現場レポート


青春夜話 Amazing Place

© 映画 『青春夜話 Amazing Place』 公式

切通理作第一回監督作品 映画 『青春夜話 Amazing Place』
2017年12月2日(土)~12月15日(金)、新宿ケイズシネマにて公開!

<あらすじ>
青井深琴と野島喬は同じ高校の卒業生だが、4歳違うため、一緒に居た時期はない。いまは20代の会社員となった彼らはひょんなことから出会って意気投合、男女の仲も意識して、一晩を過ごすことになる。喬はラブホテルではなく、通っていた校舎に深琴をいざなう。深琴は次第に、喬が<青春のやり直し>をしたがっていると思うようになる。自身も、学校時代で良い思い出のなかった深琴は、喬とともに、誰も居ない学校を治外法権に「復讐」の夜にしようと盛り上がる。
だが母校はその晩ずっと無人ではなかった。「呑みすぎちゃったかな」と学校に戻ってきた当直の女教師・山崎を、裏門で待ち受ける影。
いまこの学校は、大人になってしまった者の、一晩だけのAmazing Placeと化そうとしていた。

監督・脚本 切通理作
製作総指揮 友松直之
撮影監督 黒木歩
撮影 田宮健彦
出演 深琴/須森隆文/飯島大介/安部智凛/松井理子/友松直之/川瀬陽太/櫻井拓也/佐野和宏/黒木歩/中沢健/石川雄也/和田光沙/晴野未子/衣緒菜/吉行由実/若林美保/中野未穂/宮堂亜弓/白鳥翔子/友成亜紀子
配給 シネ☆マみれ
公式サイト⇒ http://seishunyawa.com/

2017-11-23 | Posted in NEWSComments Closed 
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