一人ひとりの幸せを考える映画になった―。映画『シスターフッド』より西原孝至監督ロングインタビュー【後編】

3月1日(金)より公開された映画『シスターフッド』より、西原孝至監督にインタビュー。後編では、『シスターフッド』というタイトルに込めた想い、そして、西原孝至監督の野望についてうかがいました。

西原孝至監督インタビュー【前編】はこちら

―岩瀬亮さんが演じる池田という映画監督が登場します。池田は、西原監督の分身のような存在ですか?

西原監督 ストーリーが破綻しないように、映画全体を貫く存在を一人登場させたいと思いました。自分の分身とまでは言いませんが、自分に一番近い存在です。ドキュメンタリーを作っている映画監督を登場させることで、映画としても流れができるし、僕としても嘘がないと思い、池田という人物を登場させました。池田が僕そのものというわけではないですが、僕が経験したことや考えなども入っています。

―絆創膏は西原監督の実体験ですか?

西原監督 あのシーンは、少し間抜けな感じにしたかったんです(笑)。池田はもっともらしいことを言いますが、「それ本当なの?」と思わせるような浮ついたキャラにしたいなと思い、絆創膏を思いつきました。

―どこか頼りない池田も、最後には少し変化を見せていますね。

西原監督 女性たちの色々な話を聞いて、彼の中で一つの小さな変化が起きた。最終的に池田が変わったのか変わっていないのか、僕もちょっと分からないですけど。

僕自身もこの映画を通して考えることもすごくありましたし、これだけ声を上げて自分の意見を切実に話してくれた女性たちの姿を見て、見ている人にも何かしら変化があるといいなと思っています。女性は共感する方が多いかもしれないですが、男性も、身につまされて自分も何か行動しなきゃと、思ってくれたらいいなと思っています。

『シスターフッド』場面写真 (c)2019 sky-key factory

―試写をご覧になった方の反応はいかがですか?

西原監督 インタビューシーンでBOMIさんは、#MeToo運動や賃金格差に対する俳優のベネディクト・カンバーバッチの発言など、「そういう時に声を上げてくれる男性が出てこないとなかなか変わらないから、男性にも積極的に声を上げて欲しい」と話されています。

それを見てくださった映画祭の男性プログラマーが、「今までは、#MeToo運動など女性が声を上げた時に、その意見に賛同はするけれども、自分がどうリアクションをすればいいのか、正直分からなかった。男性から声を上げるのは、なんだかためらうところがあったけれど、BOMIさんの話を聞いて、女性も男性が声を上げてくれるのを待っているんだということに気づけた。これからは自分も積極的に#MeToo運動などに巻き込まれていこうと思った」と言ってくださったんです。これは嬉しかったです。

―他にはどんな反響がありましたか?

西原監督 賛同してくださる方もいれば、何か身に覚えがあって身につまされたのか、意気消沈して帰っていく方もいます。いろんな方に見ていただいて、男性も何かが少し変わるような変化のきっかけになるといいなと思っています。

―男性である西原監督がフェミニズムをテーマにした作品を世に出すことは、とても意味のあることだと思います。

西原監督 今の世の中は、まだ圧倒的に男尊女卑が存在していると思います。女性から上がった声に対して、男性も応えていくべきだと思うんです。僕もどこまで応えられているか分からないですが、少なくとも女性たちが声を上げたことに対して、賛同を表明していきたい。そのひとつがこの映画だったのかもしれないです。男性も、もっと声を上げていいんだよという風潮が生まれたらいいなと思いました。

―女性の声を尊重したいと思っていても、男性側から率先して行動するのは抵抗があったり、実際にどう応えていけばいいのか分からなくて戸惑っていたりする方もいらっしゃると思います。

西原監督 古くからある価値感や社会のしがらみに縛れているのかもしれませんが、2019年になった今、もうそんなことも言っていられない。「男性中心の社会から、そろそろ変わって欲しい」というのが、おそらく皆が思っていることだと思います。色々な所から声を上げていきたいと僕も思っていますし、この映画がひとつのきっかけになればすごく嬉しいです。

―試写会を重ねていくうちに、ご自身の中でも変化が起きたのでしょうか?

西原監督 そうですね。最初は東京で生きる若い女性たちの思いを描きたいと思い、フェミニズムをテーマにしていたのですが、最終的には一人ひとりの幸せを考える映画になったと思います。フェミニズムは女性だけのものだと言われますが、生きづらさを感じているのは女性だけではないと思うんです。生きづらさを感じている男性もいるでしょうし、LGBTの方もいるでしょうし、一人ひとりの人間が生きやすくする社会にするためにフェミニズムはあるのかなと思っています。フェミニズムは女性だけのものではなく、一人ひとりすべての人のためのものだと、僕の中でも捉え直していて。それは僕の中でも一番大きかった変化です。女性だけではなく、すべての人が生きやすくすることが、解放であり、フェミニズムなのかなと、最近は考えるようになりました。

『シスターフッド』場面写真 (c)2019 sky-key factory

■一人ひとりの幸せを考える映画になったと思う

―タイトルの『シスターフッド』に込めた想いを教えてください。

西原監督 東京にいる女性たちの物語ということで、最初は単純に、「トウキョウガールズブラボー」という仮タイトルをつけていました。「シスターフッド」は、女性同士の結び付きや連帯という意味で使われる言葉ですが、撮影を進めていく中で、その意味や言葉の響きに惹かれるものがありました。兎丸(愛美)さんとBOMIさんは映画の中では出会っていないですが、兎丸さんと遠藤(新菜)さんの役や、最後の空港のシーンの秋月(三佳)さんの役と栗林(藍希)さんの役など、女性同士の結びつきや連帯というものが、この映画のタイトルとしてあっているのではないかと思い、「シスターフッド」というタイトルにしました。

―それぞれがそれぞれの人生を生きている。出会うことはなくても、感じていることや抱えている生きづらさというものが、どこかつながっているような気がしました。

西原監督 それぞれが別のことを考えていると思うのですが、「それはそれでいいんだよ」というのが伝わればいいなと思っています。それぞれ別のことを考えている、その上での連帯という意味も込めて、このタイトルを選んでいます。

『シスターフッド』場面写真 (c)2019 sky-key factory

―兎丸さんのヌード写真集のタイトルは「きっと、全部大丈夫になる」。最後に空港で栗林藍希さんが秋月三佳さんに向けた「きっと、全部大丈夫ですよ」というセリフとリンクして、「大丈夫」という言葉が印象に残りました。

西原監督 まさに写真集のタイトルから生まれた言葉です。とくに兎丸さんを見ていて思うのは、いろんなことに絶望しながらでも、最終的にはすごく明るい。死のうと思ったし、遺影も撮った。いろんなことがあるけれど、結局、今、生きていて、「すごく幸せです」と言っている。彼女の持つ強さが、「きっと、全部大丈夫になる」という言葉に現わされていると思います。

親の介護のために日本を去るユカに対して、空港で年下の後輩の女の子がひとこと伝えるシーンで、この言葉を使いたいと思いました。「いろいろあるけど、大丈夫ですよ」と。

『シスターフッド』場面写真 (c)2019 sky-key factory

―それぞれの個性があり、生き方があり、色々な考え方がある。「大丈夫」という言葉は、それをすべて肯定しているように感じられました。これから『シスターフッド』をご覧になる皆様へメッセージをお願いします。

西原監督 女性の生き方に興味が湧いて撮影を始めたのですが、最終的には、女性に限らず一人ひとりが幸せに生きていくことを考えるような映画になっていると思います。きっと、生きづらさや今の社会に違和感を持っている人はすごく沢山いると思うんです。生きづらさを感じて悩んでいる人たちの人生を後押しできるような作品になっていると思うので、この映画を見て、「その人はその人の生き方でいいんだよ」と、自分に自信を持って欲しいなと思います。
今の自分の幸せに悩んでいる人や、生きづらさを感じている人に、ぜひ見て欲しいと思います。

―最後に、西原監督の野望を教えてください。

西原監督 『シスターフッド』は、かなり時間をかけてドキュメンタリーとフィクションを組み合わせて作りました。自分がやりたかったことを実現できたので、次はしっかりと脚本を書いて、全篇フィクションの映画を作りたいですね。僕は、今の日本のメディアの報道のあり方に危機感を持っています。若い女性ジャーナリストが社会からバッシングを受けながらも孤軍奮闘するような脚本を書いているので、監督としていつかそれを映画化できたらいいなと思っています。

(撮影・インタビュー・文 出澤由美子)

◆PLOFILE
西原孝至(にしはらたかし)
映画監督・テレビディレクター。1983年9月3日、富山県生まれ。早稲田大学で映像制作を学ぶ。14年に発表した『Starting Over』は東京国際映画祭をはじめ、国内外10箇所以上の映画祭に正式招待され高い評価を得る。近年はドキュメンタリー作品を続けて制作。16年に学生団体「SEALDs」の活動を追った『わたしの自由について』がカナダ・HotDocsに正式出品、毎日映画コンクール ドキュメンタリー部門にノミネート。17年に、目と耳の両方に障害のある「盲ろう者」の日常を追った『もうろうをいきる』を発表。

『シスターフッド』は、2019年3月1日(金)アップリンク渋谷にて公開ほか全国順次公開


『シスターフッド』

(c)2019 sky-key factory

<あらすじ>
東京で暮らす私たち。
ドキュメンタリー映画監督の池田(岩瀬亮)は、フェミニズムに関するドキュメンタリーの公開に向け、取材を受ける日々を送っている。池田はある日、パートナーのユカ(秋月三佳)に、体調の悪い母親の介護をするため、彼女が暮らすカナダに移住すると告げられる。
ヌードモデルの兎丸(兎丸愛美)は、淳太(戸塚純貴)との関係について悩んでいる友人の大学生・美帆(遠藤新菜)に誘われて、池田の資料映像用のインタビュー取材に応じ、自らの家庭環境やヌードモデルになった経緯を率直に答えていく。
独立レーベルで活動を続けている歌手のBOMI(BOMI)がインタビューで語る、“幸せとは”に触発される池田。
それぞれの人間関係が交錯しながら、人生の大切な決断を下していく。

【出演】
兎丸愛美 BOMI 遠藤新菜 秋月三佳 戸塚純貴 栗林藍希 SUMIRE 岩瀬亮
【スタッフ】
監督・脚本・編集:西原孝至
撮影:飯岡幸子、山本大輔
音響:黄永昌
助監督:鈴木藍
スチール:nao takeda
音楽:Rowken
公式サイト:https://sisterhood.tokyo
Twitter:@sisterhood_film 
facebook: @sisterhood.film.2019
instagram:@sisterhood.film

2019-03-03 | Posted in NEWSComments Closed 
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