一人ひとりの幸せを考える映画になった―。映画『シスターフッド』より西原孝至監督インタビュー【前編】

多様性をテーマに、東京で暮らす“生きづらさ”を抱えた女性たちを描いた映画『シスターフッド』が3月1日(金)より公開される。本作は、西原孝至監督が2015年から撮り始めたドキュメンタリーと劇映画を織り交ぜたモノクロ映画。映画監督の池田(岩瀬亮)、池田のパートナーのユカ(秋月三佳)、大学生の美帆(遠藤新菜)、ヌードモデルの兎丸愛美、シンガーソングライターのBOMIらの人間関係が交錯し、人生の決断を下していく様を描いている。
本作で監督を務めた西原孝至さんにお話をうかがいました。

(西原孝至監督)

―なぜ、ドキュメンタリーと劇映画を織り交ぜようと思ったのですか?

西原監督 どういうテーマで撮るか、最初は自分の中でも決まっていなかったのですが、東京にいる若い女性が感じている思いや生き方を撮影したいと思い、2015年から兎丸愛美さんとBOMIさんのドキュメンタリー部分の撮影を始めました。

撮影を進めていく中で、2017年に海外で#MeToo運動が始まり、女性たちが声を上げ始めたという風潮に僕もすごく共感しました。それをドキュメンタリーで追いかけてもよかったのですが、ずっと撮りためてきたドキュメンタリーと海外で起きた女性たちの新しい変化を考えた時に、劇映画を混在させ、ドキュメンタリーと台本をもとにしたフィクションを組み合わせることを思いつきました。

兎丸さんにフィクションの部分にも出演していただき、池田という映画監督役を岩瀬さんに演じていただくほうが、映画としての強度が高まり、広がりが出るのではないかと思ったのです。

―フィクション部分の構成はスムーズに組み立てられましたか?

西原監督 仮編集したドキュメンタリーをもとにフィクションをあてはめていったのですが、流れがちゃんとつながるように、時間をかけて、キャストやスタッフに意見を聞きながら、試行錯誤して作りました。

―どこまでがドキュメンタリーでどこからがフィクションなのか、境界線がなく、見ていて不思議な感覚になりました。

西原監督 そういうふうに見ていただけると一番嬉しいです。気になる方もいれば、混乱する方もいらっしゃるかもしれません。僕自身は、ひとつの映画として、見ている人に何か伝わればいいなと思って作っているので、ドキュメンタリーとフィクションの違いというのをあまり感じていないんです。

―違いを感じていないというのは?

西原監督 例えば、誰かのインタビューをドキュメンタリーで撮影していても、もしかしたらその人が嘘を言っているかもしれないし、フィクションを撮影していても、「俳優さんが演じているところをドキュメンタリーとして撮っている」という言い方もできると思うんです。

まぁ、言葉遊びみたいなところもありますが、僕自身はドキュメンタリーとフィクションの境目をあまり感じていなくて、その境目にこの映画の面白さがあると思っています。

―監督ご自身に境界線がない。だから境界線がなく感じられたのかもしれません。

西原監督 兎丸さんもBOMIさんも、僕自身が「いいな」と思って興味が湧いた方なので、お二人が今どういうふうに考えて生きているかを、良いも悪いも含めて撮影したいと思いました。ドキュメンタリーとフィクションという撮影の仕方の違いはありますが、どうすればその人が魅力的に映るか、その人が一番輝いている瞬間を引き出すように撮影しています。

ドキュメンタリーとフィクションの境目をあまり気にせず、お一人お一人がどういうふうに考えているのか、出てくる言葉をゆっくり見ていただけたらと思います。

『シスターフッド』場面写真 (c)2019 sky-key factory

■大都市・東京で暮らす人々の生きづらさを感じたことがきっかけに

―そもそも、なぜ、東京で暮らす女性のライフスタイルに着目されたのでしょうか?

西原監督 最初は、女性ではなく、東京という街に興味を持ちました。東京は世界でも有数の大都市ですが、自殺する人も多く、体調を崩したり、心の苦しさを抱えていたりする人も沢山います。明確な原因がなく、社会の中で生きづらさを感じている人も沢山いると思います。僕自身もたまにそう思うこともありますし、僕の周りを見ても、「なんでこんなに生きづらい社会なんだろう」と漠然と思っていました。

それを自分なりに、映画を作ることでちゃんと考えたいなと思ったんです。女性のほうが生きづらい思いを沢山しているんじゃないかという感覚が僕の中でもすごくあったので、2015年に撮影をスタートしました。

―家族や友人など、身近に「生きづらさ」を感じている女性はいましたか?

西原監督 僕は18歳で富山県から上京したのですが、田舎はどうしても家父長制の傾向にあると思います。男性が一家の長として外で働き、女性は家庭の中を支える、そういった古い風習と言いますか。女性たちの中には、やりたかった夢を諦め、家庭に入った人も多いと思います。僕の母親も深くは語りませんが、そうだったのかもしれません。高度経済成長の時代に育った世代です。

今、『82年生まれ、キム・ジヨン』という小説が日本でもヒットしているそうですが、昔からある日本の風潮に対する違和感があったのかもしれません。

―「男性だから生きづらい」と思うことはありましたか?

西原監督 僕には姉と弟がいるのですが、幼少期から「長男だからちゃんとしなきゃいけない」とか「跡取りなんだから」と言われるのは嫌でしたね。「地元に残れ」とまでは言わないけれど、「長男は家を継ぐのが当然」というのは、小さい頃から違和感がありました。それで、大学は絶対に東京の大学に行きたいと思いました。

―地域特有の風習や家系や家族に根付いた風習が、きっと、どの家庭にもあるのでしょうね。

西原監督 そうですね。皆、何かしら感じていると思います。

『シスターフッド』場面写真 (c)2019 sky-key factory

■モノクロにすることで、人物にフォーカスがいく

―なぜ、全編をモノクロで表現しようと思ったのですか?

西原監督 2015年から撮影を続けて、様々な場面や時間、色々なカメラで撮影をした素材があり、それをすべて統一にしたかったというのが、モノクロにした一番の大きな理由です。時間の感覚を無くしたかったんです。

ドキュメンタリーの映像を仮編集している時にモノクロが合うんじゃないかと思って、一度、全部モノクロにしたら、自分の中ですごくしっくりきたので、去年撮影したフィクションは全編モノクロにして撮影しました。

モノクロの画って、パッと見ると、朝か夕方かわからない。それは、カラーの写真もそうなのかもしれませんが、モノクロの画は、被写体そのもの、写っている人間にフォーカスがいく気がするのです。

―たしかに、色という情報がない分、被写体に集中して見ることができます。

西原監督 今回は特に、スクリーンに注目して出演者たちの表情や言葉を見て欲しかったので、モノクロが合うと思ったのが二つめの理由です。

―モノクロであるがゆえに、登場する女性たちのそれぞれの美しさが際立ちます。表情の変化や言葉の奥に秘めた力強さがハッキリと感じ取れて、すごく素敵だなと思いました。

西原監督 ありがとうございます。そうおっしゃっていただけると嬉しいです。

―兎丸愛美さんのことはSNSで知ったそうですが、初めてご覧になった時はどんな印象を受けましたか?

西原監督 花束を裸で持っている写真を拝見して、「きれいだな」と思いました。彼女のページを見に行ったら、ヌードモデルという仕事をされていて。まず、ヌードモデルを仕事にしている人がいるということに驚きました。当時、彼女が二十歳くらいだったこともあり、どうしてその活動をしようと思ったのか、すごく興味が湧いたんです。それで連絡をして、一度カフェでお会いして、僕の前作も見ていただいたうえで、撮影をお願いしました。

『シスターフッド』場面写真(c) 2019 sky-key factory

―BOMIさんの歌には力強さがあります。彼女の印象はいかがでしたか?

西原監督 友人からBOMIさんのことを聞いてライブを観に行きました。歌もすごく良くて、お話を聞くと、大手事務所を辞めて独立レーベルで活動されていらっしゃる。自分のやりたいこと、表現したいことに思い入れのある方なんだろうなと思いました。彼女の話を聞いてみたい、音楽を作る場面に立ち会ってみたいと思ったので、撮影をご相談しました。

『シスターフッド』場面写真 (c)2019 sky-key factory

―女子大生・美帆を演じた遠藤新菜さんは、ヘアスタイルとメイクで印象がかなり変わりますね。

西原監督 そうですね。見ている人は、同じ人だって気づかないんじゃないかな?(笑)。

遠藤さんは2014年に監督した実写映画『Starting Over』でご一緒させてもらい、今回もお願いしました。2017年に撮影した後、2018年に追加撮影をお願いしたのですが、撮影に入る前に本人から「今、金髪なんですけど大丈夫ですか?」と連絡がきて(笑)。

仕事で金髪にしていたのかもしれないですし、遠藤さん自身に何か変化があったのかもしれないですが、たまたま今が金髪なのであれば、それはそれでいいと思って撮影していました。

『シスターフッド』場面写真 (c)2019 sky-key factory

―SUMIREさんは独特の存在感があります。西原監督は彼女の魅力をどのようにとらえていますか?

西原監督 遠藤さんに、カフェでフリートークをする感じを撮りたいとご相談したところ、実際の友人であるSUMIREさんを紹介していただきました。まさに、“独特の存在感”というのが彼女にあっている表現だと思います。一つひとつ言葉を探りながら、しっかりと話してくださって、いるだけで見ている側に伝わるものがある。撮影していてもすごく興味深かったです。

『シスターフッド』場面写真 (c)2019 sky-key factory

西原孝至監督ロングインタビュー【後編】に続く

(撮影・インタビュー・文 出澤由美子)

◆PLOFILE
西原孝至(にしはらたかし)
映画監督・テレビディレクター。1983年9月3日、富山県生まれ。早稲田大学で映像制作を学ぶ。14年に発表した『Starting Over』は東京国際映画祭をはじめ、国内外10箇所以上の映画祭に正式招待され高い評価を得る。近年はドキュメンタリー作品を続けて制作。16年に学生団体「SEALDs」の活動を追った『わたしの自由について』がカナダ・HotDocsに正式出品、毎日映画コンクール ドキュメンタリー部門にノミネート。17年に、目と耳の両方に障害のある「盲ろう者」の日常を追った『もうろうをいきる』を発表。

『シスターフッド』は、2019年3月1日(金)アップリンク渋谷にて公開ほか全国順次公開


『シスターフッド』

(c)2019 sky-key factory

<あらすじ>
東京で暮らす私たち。
ドキュメンタリー映画監督の池田(岩瀬亮)は、フェミニズムに関するドキュメンタリーの公開に向け、取材を受ける日々を送っている。池田はある日、パートナーのユカ(秋月三佳)に、体調の悪い母親の介護をするため、彼女が暮らすカナダに移住すると告げられる。
ヌードモデルの兎丸(兎丸愛美)は、淳太(戸塚純貴)との関係について悩んでいる友人の大学生・美帆(遠藤新菜)に誘われて、池田の資料映像用のインタビュー取材に応じ、自らの家庭環境やヌードモデルになった経緯を率直に答えていく。
独立レーベルで活動を続けている歌手のBOMI(BOMI)がインタビューで語る、“幸せとは”に触発される池田。
それぞれの人間関係が交錯しながら、人生の大切な決断を下していく。

【出演】
兎丸愛美 BOMI 遠藤新菜 秋月三佳 戸塚純貴 栗林藍希 SUMIRE 岩瀬亮
【スタッフ】
監督・脚本・編集:西原孝至
撮影:飯岡幸子、山本大輔
音響:黄永昌
助監督:鈴木藍
スチール:nao takeda
音楽:Rowken
公式サイト:https://sisterhood.tokyo
Twitter:@sisterhood_film 
facebook: @sisterhood.film.2019
instagram:@sisterhood.film

2019-03-01 | Posted in NEWSComments Closed 
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