YABOサタデー映画館―2017.12.8
『YABO』の由来は野望。
野望という強い意志を持って前向きに生きる人を取材し、その人の魅力や情報を発信するフリーペーパーです。
WEB版では毎週土曜日に「YABOサタデー映画館」を掲載。
作品をあらすじとともに野望や希望、理想にあふれる人物をYABO人としてピックアップします。
今週は下記の4作品をご紹介します。
『否定と肯定』
『DESTINY 鎌倉ものがたり』
『ビジランテ』
『ルージュの手紙』
『否定と肯定』
YABO人:ユダヤ人女性の歴史学者デボラ・E・リップシュタット(レイチェル・ワイズ)
90年代半ば、イギリスの歴史家デイヴィッド・アーヴィング(ティモシー・スポール)が「大量虐殺はなかった」と訴えるホロコースト否定論を看過できず、自著「ホロコーストの真実」で真っ向から否定した。するとアメリカのジョージア州アトランタにあるエモリー大学で講演を行っていたところに突如アーヴィングが乗り込んできた。リップシュタットは攻め立てられた上、名誉毀損で提訴される。アーヴィングは訴えられた側に立証責任がある英国で裁判を起こしたので、訴訟に勝つためには司法制度の中でホロコースト否定論を崩さなければならない。英国人の優秀な弁護団とともにアウシュビッツの現地調査も行い、ホロコーストが実在したことを法廷の場で証明しようとする。
レイチェル・ワイズが演じるリップシュタットは弁が立つ。アーヴィングの発言にカチンとくると、まくし立てるように反論する。そんなリップシュタットに弁護団は「法廷では発言しないように」と要請し、ホロコースト生存者が法廷で証言することも拒否した。リップシュタットは戸惑い、弁護団を信頼しきれない。しかし、裁判が進むにつれて彼らの戦術の深さと巧みさを知る。リップシュタットが弁護団とぶつかり合いながらも絆を強めていく姿に引き込まれるに違いない。
『否定と肯定』
12月8日(金)、TOHOシネマズ シャンテ 他全国ロードショー
監督:ミック・ジャクソン
出演::レイチェル・ワイズ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・スポール
配給:ツイン
© DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016
公式サイト: http://hitei-koutei.com/
『DESTINY 鎌倉ものがたり』
YABO人:鎌倉に暮らすミステリー作家・一色正和(堺雅人)
編集部の使いで原稿を取りに来ていた年若い亜紀子(高畑充希)と結婚。新婚生活が始まったが、本業の小説執筆に加え、鎌倉署の捜査にも協力し、さらに鉄道模型収集や熱帯魚飼育など多趣味でもあり忙しい。それでも2人で仲睦まじく暮らしていたが、ある日、目を覚ますと亜紀子は夫への愛にあふれた手紙を残して姿を消していた。亜紀子が不慮の事故で亡くなり、黄泉の国(あの世)に旅立っていたことを知る。失って改めて妻への愛に気づき、亜紀子の命を取り戻すため、一人黄泉の国へ向かう。
作品には一色夫妻以外にも、ご近所の老夫婦や正和の編集担当者と妻、正和の両親などの夫婦の姿が描かれる。どの夫婦もお互いに相手を愛し、慈しんでいるのが作品から伝わってきた。未婚の人なら「結婚っていいな」と、既婚者は「こんな夫婦になりたい」と思うだろう。
見どころはたくさんあるが、堺雅人演じる正和が妻を取り戻すために黄泉の国で繰り広げる大立ち回りはその1つ。木刀ではあるものの剣さばきは見応えたっぷり。また、堤真一、田中泯、中村玉緒、國村隼、薬師丸ひろ子といった演技上手な俳優が脇を固めるが、その中でも安藤サクラが絶品。男性のイメージが強い死神を女性の安藤サクラが中性的に飄々と演じ、中間管理職の悲哀さえ感じさせて印象に残った。
『DESTINY 鎌倉ものがたり』
2017年12月9日全国東宝系にてロードショー
監督・脚本・VFX:山崎貴
原作:西岸良平「鎌倉ものがたり」(双葉社「月刊まんがタウン」連載)
出演:堺雅人、高畑充希、堤真一、安藤サクラ、田中泯、中村玉緒、市川実日子、ムロツヨシ、要潤、大倉孝二、神戸浩、國村隼、古田新太、鶴田真由、薬師丸ひろ子、吉行和子、橋爪功、三浦友和
配給:東宝
©2017「DESTINY鎌倉ものがたり」製作委員会
公式サイト: http://kamakura-movie.jp/
『ビジランテ』
YABO人:市議会議員である二郎(鈴木浩介)の妻・美希(篠田麻里子)
夫には幼い頃に失踪した兄・一郎(大森南朋)とデリヘル業雇われ店長の弟・三郎(桐谷健太)がいる。夫が地元市議会最大会派である大泉一派で出世するよう尻を叩き、自らも女の武器を使ってサポート。亡くなった舅・武雄(菅田俊)が所有する土地は大泉一派が地元住民の反対を受けながらも進めているアウトレットモール建設予定地の一部だったので、そこを夫に相続させたいと思っている。しかし、別々の世界を生きてきた夫たち三兄弟が武雄の死をきっかけに再会。三兄弟の運命が再び交錯し、欲望、野心、プライドがぶつかり合い、事態は凄惨な方向へ向かっていく。
『22年目の告白-私が殺人犯です-』(2017)が邦画3週連続1位の快挙を打ち出し評価を高めた入江悠監督が、自ら企画を売り込んで作り上げた。ミニシアターを席巻し、映画監督として名を世に知らしめた『SR サイタマノラッパー』(2008)シリーズ以来となるオリジナルストーリーだ。壊れた倫理観、えぐられる醜い人間性、救いのない世界、映画でしか描けない限界に挑戦し、新たな境地をみせる。注目はYABO人として取り上げた篠田麻里子。夫の出世こそ自分の幸せ。そのためにはとことん冷酷になれる。かなりの悪女だが、ここまで振り切れば、かえって清々しい。これまでの清純なイメージを覆すような大胆な濡れ場にも挑戦し、女優としての新たな一面を開花させた。
『ビジランテ』
2017年12月9日(土)より テアトル新宿ほか全国ロードショー
脚本・監督:入江悠
出演:大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太
配給:東京テアトル
© 2017「ビジランテ」製作委員会
公式サイト:https://vigilante-movie.com/index.php
『ルージュの手紙』
YABO人:パリ郊外、モント=ラ=ジョリーに住むクレール(カトリーヌ・フロ)
規律を守る真面目な性格で、助産婦として働きながら息子と2人で静かに暮らしていた。そこに父親の元妻で30年前に忽然と姿を消していた血のつながらない母、ベアトリス(カトリーヌ・ドヌーヴ)から連絡がある。ベアトリスは「あなたのお父さんに逢いたい。私が人生で一番愛した人だから」と語るが、父親はベアトリスが失踪したことに耐えきれず自殺してしまっており、彼女のことは今でも許せなかった。自由で人生を謳歌しているベアトリスのことを初めは疎ましく思っていたが、いつしかその生き方に影響され人生の扉を少しずつ開きはじめる。
クレールは自転車で自宅と職場を行き来し、日々出産に取り組んできた。仲間の信頼も厚く、母子二代にわたって赤ちゃんを取り上げたこともある。堅実だが地味な人生だ。一方のベアトリスは男を渡り歩き、賭博で生活費を稼ぐ。決して褒められた人生ではない。しかし、ベアトリスの方が充実しているように見える。それは自分の人生を楽しんでいるからだろう。クレールはベアトリスと一緒にいるうちに少しずつ変わっていく。恋をして、彼のためにルージュを引く姿はいくつになっても女性をかわいらしく見せるものだ。せっかく授かった人生。やっぱり楽しまなきゃもったいない!と素直に思えてくる。
ベアトリスを演じたカトリーヌ・ドヌーヴは御年74歳。お腹周りこそ年齢相応の貫禄がついているが、背筋はすっと伸び、足首はきゅっと引き締まって美しい。見習いたいものだ。
ところで、作品でクレールは何人もの妊婦の分娩を介助するが、本物の出産を撮影したという。映し出される生まれたばかりの赤ちゃんのかわいいこと! スクリーンから誕生の喜びがダイレクトに伝わってくる。
『ルージュの手紙』
12月9日、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
監督・脚本:マルタン・プロヴォ
出演: カトリーヌ・ドヌーヴ、カトリーヌ・フロ、オリヴィエ・グルメ
配給:キノフィルムズ
© CURIOSA FILMS – VERSUS PRODUCTION – France 3 CINEMA
公式サイト:http://rouge-letter.com/