7月29日(土)公開『東京喰種 トーキョーグール』萩原健太郎監督インタビュー

食物連鎖の頂点とされるヒトを狩って喰らう“喰種(グール)”と人間の戦いを描いた、石田スイ原作の『東京喰種 トーキョーグール』。
2011年の「週刊ヤングジャンプ」(集英社)連載直後から圧倒的な支持を得て、すでに単行本は世界累計3000万部を超える。この超人気コミックがアニメ、舞台、ゲーム化を経て、いよいよ実写映画化され、2017年7月29日(土)に公開を迎える。
メガホンを取ったのは、これまで多くのCMやミュージックビデオ、ショートフィルムの演出を手掛けてきた萩原健太郎監督。本作で初の長編デビューを飾った。
人間ドラマの描写に定評がある萩原監督に、本作への思いをうかがった。

『東京喰種 トーキョーグール』

Ⓒ2017「東京喰種」製作委員会 Ⓒ石田スイ/集英社

喰種になってしまった主人公の葛藤を描く

―監督を引き受けた経緯をお聞かせください。

プロデューサーの永江智大さんから声を掛けていただきました。うれしかったですね。「『東京喰種』を一つの方向性にしたい」と言われたのですが、これはほかの誰かが映画を作るときに、「『東京喰種』のようなものを作りたい」と言われる作品を目指すということ。昔、北野武監督の作品は“キタノブルー”と言われていましたが、オリジナリティーの掛け算の結果だと思うのです。何が東京喰種らしいものになるかを考えました。

―原作を読んだとき、どのように感じられましたか。

原作を読んだのはオファーがあってから。とにかく夢中になって読みました。カネキの気持ちがしっかり描かれ、彼の葛藤をマンガならではのやり方で表現しているのが面白かった。石田先生はストーリーの組み立て方が本当にお上手です。

―作品は“喰種と人間、それぞれの正義をかけた戦い”を、半喰種になってしまったカネキの葛藤を軸に描いています。

僕が監督として入ってから、まずは脚本の作業からはじめました。喰種と人間の苦しみが根本のテーマにあるので、喰種になってしまったときのカネキの葛藤を描くことが大事だと思いました。

―喰種は人間が食べるものを受け付けません。カネキが味覚の変化を実感するシーンから、深い絶望が伝わってきました。

撮影したのはクランクイン初日でした。何を食べて、何を吐くのか。いろいろ考えましたね。見た人の味覚を刺激しつつ、グロテスクにならず、しかし強く印象に残るもの。最初にトマトを食べます。トマトの青臭さって多くの人がイメージできますよね。その後にジャムを舐める。ジャムの甘ったるさも想像しやすい。牛乳は臭いけれど、それで流し込もうとする。見た人が味や匂いを想像できるもので、見た目も含めて構成しました。

―人間だったときはとても美味しそうに食べていました。

対比を意識しました。人間だったカネキが食べるタマゴサンドはとにかく美味しそうに見せたい。挟む卵の量やパンの厚みを変えて、何回も作ってもらいました。あんパンはふわふわに膨らんでいます。リゼがカネキとのデートで頼んだサンドイッチも美味しそうに見えるよう作りました。

―主演の窪田正孝さんとは役づくりについて、どんな話をしましたか。

『東京喰種 トーキョーグール』

Ⓒ2017「東京喰種」製作委員会 Ⓒ石田スイ/集英社

窪田くんとはクランクイン前に、マンガに描かれていない部分について話をしました。この話がスタートする前にカネキに何があったのか。なぜ本しか読まないのか。なぜ友だちが1人しかいないのか。友だちが1人しかいないとは、どういうことなんだろう。普段は何を意識していて、将来は何になりたいのか。想像の中ですが、キャラクターを広げる話をしました。

―喰種捜査官・真戸の結婚指輪が見えるシーンに、劇中では描かれていない妻の存在が見え、キャラクターの広がりを感じました。

『東京喰種 トーキョーグール』

Ⓒ2017「東京喰種」製作委員会 Ⓒ石田スイ/集英社

あのシーンは編集で1度カットしたのですが、やはりあったほうがいいのではということになりました。真戸もただの狂人ではない。なぜ喰種に多大な恨みを持っているのか。演じる上で動機が必要です。
葛藤は生きていく上で誰もが経験することです。映画もキャラクターに葛藤がないと面白くありません。ストーリー上では描かれていなくても、キャラクターを演じる上で心に葛藤がないとキャラクターとして魅力的に見えない。そういったキャラクターのバックグラウンドになることを役者の方と話をしました。

CM制作の経験を映画づくりに生かす

―監督のこれまでの制作経験が作品に反映されていると聞きました。

僕はこれまでCMを中心に作ってきました。CMは予算があるので、作るにあたって何をするのがベストなのかをゼロから考えます。最新映像が好まれ、海外のスタッフを入れて作ることも多い。新しい技術を積極的に取り入れる開かれた業界です。
長編映画は初めてです。だからこそ、いわゆる映画のやり方にとらわれずCM制作での経験を取り入れることができたのだと思います。

―具体的にはどんなことですか。

例えばアフレコ(撮影後に俳優の声を別途録音すること)です。これまで日本は狭いブースの中で、ヘッドホンをつけて台本を見ながらというスタイルでやってきました。役者にとってアフレコは相当なストレスだと思います。しかし、今回は大きなスペースに機材も役者も僕もみんな入り、画面にセリフとタイミングを出す。役者は本を持たず、自由に動きながらタイミングをみてセリフを話す。それを普通のブームマイクで録りました。
この方法はすごくやりやすかったようで、大泉洋さんが気に入ってくれました。効果音との音質を合わせるためにも、アフレコは必須でした。海外の現場ではスタンダードなやり方です。絵に映っていない細かい技術的な部分でも新しいことをしました。

―バトル・アクションも見どころですね。

『東京喰種 トーキョーグール』

Ⓒ2017「東京喰種」製作委員会 Ⓒ石田スイ/集英社

喰種には背中から出てくる赫子(カグネ)と呼ばれる捕食器官があり、これは戦いのときにも使用します。また、喰種捜査官は捕獲した喰種の赫子を利用して作ったクインケと呼ばれる武器を持っています。独特なアクションですね。撮影では、ターゲットと呼ばれる緑色の棒みたいなものを役者の背中につけて撮影し、それを目安にして赫子やクインケをCGで足しました。喰種捜査官の亜門が持っている金棒状のクインケも、撮影時には簡易的なものでした。実際には軽いクインケを重そうに見せるのは大変だったようです。クインケを持ち、タイトなロングコートタイプの戦闘服を着てのアクションはハードで、演じた鈴木伸之さんはかなり身体を絞ってくれました。

短編でも長編でも、自分の心が動くものを手掛けていきたい

―今後の野望をお聞かせください。

CMやショートフィルムのような短編と、映画のような長編のどちらもやってみたいですね。僕は理屈ではなく、直感で選ぶ。今回、話をいただいて企画を見たときも、衝動に駆られるように原作を買って読み、すぐに「自分だったらこう撮る」ということをまとめて、永江さんに見せました。こんなに衝動的になることはこれまでありませんでした。普段の自分と違い、すばやく行動できたのは、感覚的にこれだというものがあったのだと思います。そうやって心が動くものだったらCMでも映画でも、媒体にこだわらず何でもやってみたい。ジャンルにこだわると幅が狭まるし、同じことばかりやっていてもおもしろくない。魅力的だなと思えるキャラクターがいれば十分。常に新しいことをしたいと思っています。

萩原健太郎監督 プロフィール

萩原健太郎監督
1980年生まれ、東京都出身。
2007年にArt Center College of Design (ロサンゼルス) 映画学部卒業後、日本に帰国。
THE DIRECTORES GUILDに参加し、ソフトバンク、TOYOTA、コカコーラをはじめ、多数のテレビCM、ミュージックビデオ、ショートフィルムの演出を手がける。
初長編脚本「Spectacled Tiger」が、米サンダンス映画祭にて優秀な脚本に送られるサンダンスNHK賞を日本人で初めて受賞。
2017年3月NHK BSにて、プレミアムよるドラマ「嘘なんてひとつもないの」がオンエア。 本作が長編映画初監督作となる。

『東京喰種 トーキョーグール』

『東京喰種 トーキョーグール』

Ⓒ2017「東京喰種」製作委員会 Ⓒ石田スイ/集英社

<STORY>
人の姿をしながらも人を喰らう怪人【喰種(グール)】。水とコーヒー以外で摂取できるのは「人体」のみという正体不明の怪物たちが、人間と同じように暮らしている街、東京。ごく普通のさえない大学生のカネキ(窪田正孝)は、ある日、事件に遭い重傷を負ってしまう。病院に運び込まれたカネキは、事故の時一緒にいた喰種の女性・リゼの臓器を移植されたことで、半喰種となってしまう。自分が喰種化したことで苦悩するカネキは、以前から通い詰めていた喫茶店あんていくで働き始め、そこでアルバイトをしている女子高生・トーカ(清水富美加)と出会う。あんていくは喰種が集まる店で、トーカもまた喰種なのだった。トーカはぶっきらぼうな態度を取りつつも、やがてカネキを助ける存在となっていく。そんな中、喰種にも人間と同じように、守るべき家族や大切な友人がいること、愛する気持ちや哀しみ、憎しみといった感情があることを知り、カネキは人間と喰種、二つの世界の価値観の中で葛藤する。一方、喰種を駆逐しようとする人間側の組織・CCG(Commission of Counter Ghoul)の捜査官・亜門(鈴木伸之)、真戸(大泉洋)が現れ、熾烈な戦いに巻き込まれていくのだった…。

2017年7月29日(土)公開
原作:石田スイ 「東京喰種 トーキョーグール」 (集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
出演:窪田正孝
清水富美加、鈴木伸之、桜田ひより、蒼井優、大泉洋
村井國夫 / 小笠原 海、白石隼也、相田翔子、栁 俊太郎、坂東巳之助
佐々木 希、浜野謙太、古畑星夏、前野朋哉、ダンカン、岩松 了
監督:萩原健太郎
脚本:楠野一郎
音楽:Don Davis
主題歌:illion「BANKA」
配給:松竹
Ⓒ2017「東京喰種」製作委員会 Ⓒ石田スイ/集英社
公式サイト:http://tokyoghoul.jp/

(取材・文:堀木三紀)

2017-07-25 | Posted in NEWSComments Closed 
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