『侍タイムスリッパー』ヒロイン優子こと沙倉ゆうのさん写真集『BRILLIANCE』発売記念インタビュー「この写真集を見て『私も頑張ろう』と思ってくれたらいいな」
2024年、自主制作という枠組みを超えて一大ブームを巻き起こし、今年3月には日本アカデミー賞を受賞した映画『侍タイムスリッパー』。
その『侍タイ』でヒロインの優子を務めたのが女優、沙倉ゆうのさんだ。『侍タイ』の安田淳一監督率いる未来映画社になくてはならない存在であり、長編・短編問わず、今まで安田監督の作品の多くで、ヒロインや主人公を演じ続けてきた。特に『侍タイ』では役柄だけではなく、実際に助監督として撮影現場を奔走。影に日向に安田監督を支えたのはいまや有名な話。
その沙倉さんの魅力を余すところなく詰め込んだ、完全撮りおろしの写真集『BRILLIANCE』が今年8月に発売された。
自主出版ながら表紙を含めて148ページものボリュームを誇り、さらに安田監督がカメラマンを務めたことで、そのクオリティは折り紙つき。撮影は2019年から2025年までの7年間に及んだという。
沙倉さんの魅力と言えば、清楚で穏やかな雰囲気、凛とした佇まい、親しみやすい人柄などが挙げられるが、安田監督の作品群で見せる、ひたむきな姿も忘れてはならない。
『侍タイ』で主人公の新左衛門がタイムスリップした現代で斬られ役として生きることを決意したのも、もちろん時代劇に魅了されたのがキッカケだが、台詞でも言及されているように、助監督として一生懸命頑張っている優子のひたむきな姿に、同じ〈侍〉の心を見出したからでもある。単に華を添えるヒロインではなく、主人公が共鳴したことで物語が大きく躍動する“推進力”の役割も担っていたのだ。
『侍タイ』の優子の役柄から、真面目で頑張り屋さんのイメージが強い沙倉さんだが、今回の写真集を作るにあたって「素顔の私を見てほしい」と希望。服装はすべて沙倉さんが自前で用意したものであり、カメラマンの安田監督は映画制作と同様の強いこだわりを持って撮影を行っていったという。
自然に身を委ねたかのように、キャミソール姿の沙倉さんが水辺にしどけなく腰かけて木漏れ日に顔を上げた表紙のカットは、その際たるもの。飾ることのない爛漫な姿を捉えた渾身のショットと言えよう。このように本書には沙倉さんの様々な姿が活写されている。女子高生に扮したキュートなものから、詩情を湛えたアート性の高いもの、中には艶やかで甘美な表情をした魅惑的なショットもあり、映画で見せた姿とはまた違った魅力と解放感に満ち溢れている。
今回、写真集発売を記念して、沙倉さんご本人にインタビューを敢行。本書の撮影の舞台裏をはじめ、いろいろとお話を伺った。
※本記事内に掲載の画像はすべて沙倉ゆうのさんご本人からご提供いただいたものです。写真集には載っていないバージョンのものもあり。
<文責>
取材 YABO大学校(香取海沙、小関はな)
文 今井あつし
ディレクター 藤澤祐衣
●本書は2冊目の写真集
——最初に写真集を発行することになった経緯から教えてください。
沙倉 今回の写真集は2冊目になるんですよ。1冊目を作った経緯からお話しますと、私が安田淳一監督主宰の未来映画社に所属したのがキッカケとなります。未来映画社は制作会社であって芸能事務所ではないので、私を売り出そうにも営業の仕方がわからない。そのために安田監督が私を主演に据えて作ったのが映画『ごはん』(2017年)なんです。
——安田監督の長編映画としては『侍タイムスリッパー』(2024年)の前作にあたる作品ですね。
沙倉 ただ『ごはん』はお米作りがテーマなだけに、春から夏の期間しか撮影ができない事情があって。「その合間にも仕事を作らなあかん。写真集でも出そうか」と安田監督が手掛けたのが1冊目の『INNOCENCE』だったんです。
——ちなみに1冊目はいつ頃リリースされたのでしょうか?
沙倉 安田監督の長編監督デビュー作『拳銃と目玉焼』(2014年)の公開後だったから、2015年だったと思います。おかげ様で写真集は好評をいただいて、『ごはん』も無事に公開を終えて落ち着いた2019年あたりから2冊目に向けて撮影を始めました。映画もそうなんですけど、安田監督は写真集でも時間を掛けて作り上げていくんです。
撮影した写真は膨大な数にのぼるという。「私と安田淳一監督で厳選して写真を選んでいくんですが、最終的な掲載はすべて安田監督が決めていきました。ちなみに監督はこの衣装がすごい好きだそうです」(沙倉さん)
●安田淳一監督が決めていく
——今回の写真集のタイトル「BRILLIANCE」の由来を教えてください。
沙倉 1冊目の「INNOCENCE」もそうですが、監督が決めました。最初に「今回は〈輝き〉という意味のタイトルがいいんとちゃうか?」と言い出して、「SHINING」などがある中で、ダイヤモンドの輝きを表す「BRILLIANCE」がシックリとくるということになって。もう監督の独断で、私が何か意見を言うことはなかったです。
——監督は写真集でカメラマンを務められたとのことですが、撮影のコンセプトなども監督が決めていく感じだったのでしょうか?
沙倉 そうですね。特に1冊目は監督に言われるがまま撮っていきましたので、今回の写真集では自分で衣装をすべて用意して、「こういったショットを撮ってほしい」と監督に要望を伝えました。でも、やっぱり今回も撮影場所をはじめ、基本的なことは監督が決めていく感じで、結局、監督の気に入っている写真ばっかり載ることになって(笑)。監督の中で好みの角度やベストショットが決まっているから、それとは違うものはなかなか撮ってもらえなかったですね。
表紙の写真にしても、最初は脚を閉じていたんですけど、「飾ることなく、自然体でいようか」と指示されて、さらに「陽のある方に顔を上げて、勝負しろ」とも言われました(笑)。
表紙にもなった一連のショット。安田淳一監督はポージングにもこだわった。
●無修正な写真集!?
——撮影が2019年から2025年までの7年間に及んだとのことですが、その間に『侍タイムスリッパー』の撮影と公開があって、プライベートも含めて環境が変化されたと思います。この写真集の中でも、その影響はありましたか?
沙倉 今まで私のファンは男性の方が多かったんですけど、『侍タイ』をキッカケに女性の方からの応援が増えたんですよ。だから、女性の方がこの写真集を見て「ゆうのちゃんが頑張っているから、私も頑張ろう」と思ってくれたらいいなという希望もあって、Photoshopなどで修正を施すようなことは一切していないです。
——そうなんですか!
沙倉 そうなんです、完全に無修正です(笑)。だから、アップのカットをよく見たら、シミやシワが映っていると思います。もともと「修正はしたくない」と口にしていましたし、監督からも「修正が必要になったら、モデルとして終わりや」と言われていて(笑)。それに肌をツルツルに加工しても、私をよく知っている人が見れば、「絶対にそんな肌じゃないでしょ」と丸わかりじゃないですか。そのままの姿で写るのが自然で一番良いかなって。
——でも、撮影期間である7年間、まったく沙倉さんの姿が変わっていなくてビックリです。『侍タイムスリッパー』公式HPのプロフィールにも「変わらぬ若さに皆が驚いた」と記されていますが、沙倉さんが普段心掛けている美容や健康法があれば教えてください。
沙倉 美容ですか? う~ん。ファンケルのコラーゲンのサプリは常に飲んでいますが、「化粧品は必ずこれ」とは決めていないんです。毎月何かしら新商品が発売されるじゃないですか。とりあえずひと通り試したくて、毎回違う商品を買っています。
美容家の神崎恵さんが好きで、「どんな美容法をしているんだろう?」と動画を観たりするんですけど、実際にどの化粧品が自分に合うかはわからないですね。美容液はエイジングケア用を選ぶことが多く、化粧水・美容液・乳液クリームを使用しています。あと日焼け止めは1年中。SPF30を使っていますね。
あと、何だろう? とにかく運動はずっと続けています。ジムで筋トレを中心に鍛えているんですが、やめた途端に身体がたるんできそうで、もう怖くてやめられないですね。
浴衣コンテストをキッカケに現在の業界に入った沙倉さん。本写真集では3着もの浴衣姿を披露。「私、浴衣がすごく好きで、自宅には6着ぐらいあります。このカットは紫陽花に合わせて水玉柄の浴衣を着ました」(沙倉さん)
●鳥取砂丘は季節外れの撮影だった!?
——ロケが31カ所に及んだとのことですが、その中で最も印象に残った場所を教えてください。
沙倉 やっぱり鳥取砂丘ですかね。後に『侍タイ』デラックス版で優子ちゃんの妄想シーンの撮影でも訪れたこともあって印象深いです。写真集の撮影では「砂漠が綺麗な砂紋(風の力で出来る波状の模様)を描く朝方に写真を撮ろう」となって、午前3時ぐらいから車で出掛けたんですよ。だけど、あまり風が吹いていなかったようで、思ったような砂紋になっておらず、しかも10月末の時期だったので、とにかく寒かったです。
——あの写真は夏場ではなかったんですか。
沙倉 写真集って基本的に水着や薄着姿が主じゃないですか。でも、必ずしも夏にスケジュールが空いているわけではないから、秋も深まった時期での撮影となりました。この写真集ではそういった季節外れの中で撮影したカットが多々ありますね。特に鳥取砂丘は海辺ということもあって、もう鳥肌が立ちっぱなしで(笑)。
監督は思っていた画と違っているわ、とにかく寒いわで、もう怒りながら撮影していました。田んぼを舞台にした『ごはん』もそうでしたが、自然の中での撮影は想像以上に過酷で、本当に大変ですね。撮り終えてからグッタリしました。
安田監督率いる未来映画社は以前から香川県の「さぬき映画祭」に参加している。「この写真はさぬき映画祭の帰りに撮ったものです。2月の高松の漁港だったんですけど、キャミソールで夏っぽくしようと思ったら、天候も不安定だったこともあって、本当に寒かったです。監督は『俺がそれを着ろと頼んだわけじゃないから』と呆れていました(笑)」(沙倉さん)
●小悪魔っぽい衣装で大胆なカットに挑戦
——今回の写真集では沙倉さんご自身が用意したこともあって、どの衣装も素敵です。特にお気に入りの衣装はありますか?
沙倉 どれもお気に入りではあるんですけど、特に印象に残っている衣装で言えば、写真集の最後のほうに掲載している、黒の薄いキャミソールですね。
——ベッドの上で沙倉さんが着用されているものですね。
沙倉 そうです。あの衣装は友人から昔プレゼントされたものなんですけど、私って黒があまり合わないんですよね。それに胸元が大きく開いたデザインですし、「いつ着るの?」と、ずっと仕舞ったままにしていたんです。
でも、今回の写真集では小悪魔っぽいところも見せられたらいいなと、思い切って着てみました。それで小悪魔っぽさを出すために、撮影現場にリンゴを持って行ったんですよ。黒の衣装に赤いリンゴが可愛く映えるかなと思っていたら、監督から「いらんな」と言われてしまって(笑)。
——ベッドの写真は衣装もそうですが、かなり大胆なポーズで魅惑的に撮られています。撮影に対してどのような意識で臨まれたのでしょうか?
沙倉 普段の私ではない表情や仕草を撮ってほしかったんです。実は私、昔から女優さんやアイドルなど、可愛くて綺麗な女の子が大好きで、写真集をよく買っていた子どもだったんですよ。男性俳優では東山紀之さんが小学校1年生の時からずっと好きで、結婚したいと思っていたぐらい(笑)。
——確かに女性・男性に限らずアイドルの写真集って、露出度の高いカットも多々掲載されていますね。
沙倉 もちろん隠すべきところは隠していますけど、露わな姿も素敵に撮られていますよね。そこまで大胆にならなくても、せっかく写真集を作るのであれば、そういったカットもあった方がいいと私から提案しました。
でも、『侍タイ』で私が演じた優子ちゃんの真面目なイメージがやっぱり強いので、監督が「ファンが見たら衝撃を受ける」と編集の際に削ろうとしたんですよ。だから、「あの写真は絶対に入れといてよ」と念を押しました。監督は「俺が無理やり撮ったと思われる」と心配していましたけど(笑)。
子どもの頃から女優やアイドルの写真集が大好きだったという沙倉さん。本書では沙倉さんの憧れだったモデルやアイドル、女優たちの写真集にオマージュを捧げたカットも多数掲載している。
●役者とモデルとの違い
——沙倉さんは京都府警や消防署のポスターモデルも務められていますが、役者とモデルとではカメラの前に立つ際の意識に違いはありますか?
沙倉 意識の違いですか。お芝居って相手とのやりとりで成立するものなので、相手の台詞の言い方によって返し方も変わってくるから、始めから「こうしよう」とガチガチに決めて撮影に臨むことはないですね。
私、モデルが本業ではないので、写真に関して一概には言えないんですけど、警察署などのポスターはあらかじめポーズが決められているので、やりやすいんです。だけど、今回のような写真集になると、どのようなポージングが一番映えるのか、実際に撮影してみないとわからないので、とても難しかったです。
最近は被写体が自由に動いているところを連写で撮っていって、そこから良いものを選んでいく方法もありますけど、監督はそういった撮り方は好まず、しっかりとポーズを決めてから撮っていくタイプなんですよね。
——1枚の画として、キチンと構図を決めて撮りたいという感じなのでしょうか。
沙倉 そうそう。だから結局、監督の望むポージングに合わせていくことになりますね。お芝居でも、観客にちゃんと気持ちが伝わっているかどうか、最終的に自分では判断できないじゃないですか。監督が顔の上げ方など、細かいところまで調整していって、はじめてオッケーをもらえるという感じです。
沙倉さんが以前飼っていた愛犬の琥珀とのツーショット。本書では珍しい長袖の衣装となる。
●照明にこだわり抜く安田監督
——安田監督は『侍タイ』で撮影などを兼任されたのは有名なお話ですが、写真集でもカメラマンを務められました。沙倉さんから見て、改めて安田監督はクリエイターとしてどのような存在でしょうか。
沙倉 クリエイターとして、やっぱりすごい方です。映画の撮影にしても、とにかく細かいんですよ。普通のカメラマンだったら気にしないような、髪の靡き方や服のちょっとした乱れにも神経を注ぐので、本当にこだわりが強いです。
特に照明に対しては徹底的にこだわりますね。映画の現場では、もう照明が撮影の全てを司っていると言ってもいいぐらい。
——安田監督は過去のインタビューで、限られた空間の中で陰影を作って構図を安定させる撮影方法なので、自分は映画会社で言えば、東映よりも松竹の撮り方だと仰っていました。
沙倉 監督が言うには、松竹はきめ細かく陰影を付けるらしいんです。だから、監督の現場では「後ろからタッチを入れる」と言って、3灯ライティング(左右のみならず後方からもライトを当てる方法)で被写体の輪郭を際立たせることが多いですね。たまに人物が画面から浮き上がりすぎて、「やりすぎた」と反省してる時もありますけど(笑)。
ただ今回の写真集は野外の撮影が中心ですので、照明機材は2つぐらいしか使用できず、あとは太陽光に頼るしかなかったです。
照明はレフ板とライトを併用する場合も。「京都の祇園や伏見稲荷で撮影した時はライトのみでした。普段なら人通りが多くて混み合う場所ですが、ちょうど2021年のコロナ禍で人がほとんどいなかったこともあって、比較的スムーズに撮影できました」(沙倉さん)
●無事に写真集が出来上がった
——お話をお聞きして、改めて今回の写真集の表紙を見ると、沙倉さんの髪が輝いていて、背景と見事なコントラストをなしています。本当に安田監督は丁寧に撮影されていたのですね。
沙倉 私が「雰囲気が良いから、ここで撮ってほしい」とお願いしても、「この背景では画にならへん」「こっち側から撮れば、なんとかなるか」と、空間全体をすごく気にしていました。単に私が可愛く写っていればいいというのではなく、1枚の画として全体の完成度までちゃんと考えてから撮影に入る。
ただ普通のカメラマンだったら、撮影時に「いいね」「最高だよ」って、モデルの気持ちを上げてくれるじゃないですか。監督は撮りながら、「なんか違う」「あんまりだな」とか、そういうことをずっと言ってくるんですよ(笑)。
——それでは気持ちが落ち着かないですね。
沙倉 そうなんです。けっこうダメ出しされました。ただ、『侍タイ』で若き日の風見さんこと山形彦九郎を演じた庄野﨑謙さんが、この写真集の表紙を一目見るなり、「すごい」と褒めてくれて。「このカットを撮るのに、カメラマンもモデルもかなりの労力を費やしたでしょう。なかなか撮れないショットです。本当にこの写真は良いですね」と労ってくれました。
実際に安定しない岩場に腰かけないといけないし、山の中だから全体的に光量が足りない。監督の意図とは違う動きをしたり、何か不測の事態が起きたら、それまでの準備が台無しになってしまう。絶妙のタイミングでシャッターを切らないといけなかったんです。なので、その苦労を察してくれたのは本当に嬉しかったですね。
「撮影は基本的にモデルの私、カメラマンである監督、『ごはん』の時からずっと手伝ってくれているスタッフさんの3人体制で、たまに私の母がお手伝いに来てくれました。ただ遠出する時は私と監督の2人が多かったので、大掛かりなことは出来なかったですね」(沙倉さん)
——それだけに写真集が出来上がった時は達成感でいっぱいだったと思います。
沙倉 やっと出来上がったという達成感と同時に安心感もありましたね。自主出版ということもあって、予算の関係から試し刷りが出来なかったんです。印刷所に入稿したら、あとは完成を待つしかなくて。ページが抜けてやしないか、天地が逆になってやしないかと不安で。監督は「依頼した印刷所はスタッフの方がちゃんとチェックしてくれるところだから大丈夫だろう」と言ってくれたんですけど、それでも心配でした。
だから完成品が届いて、全ページ問題ないとわかった時は心の底からホッとしました。
——撮影が7年間に及びましたから、無事に出来上がって良かったです。
沙倉 本当は2021年に発行する予定だったんです。だけど、途中から『侍タイムスリッパー』の準備が始まったことで、こんなにも時間が掛かってしまいました。監督は「『侍タイ』公開時に写真集を出せたらいいな」と言ってたんですけど、公開が決まってからも自分で予告編を編集することになり、さらにパンフレットまで手掛けることになって、とにかく忙しくて。ようやくひと段落ついて写真集を完成させることが出来ました。
こちらは写真集のカットではなく、『侍タイムスリッパー』撮影時、クライマックスの舞台となる油日神社でのショット。助監督の優子という役柄のため眼鏡を掛けている。
●さらなる広がりを見せる『侍タイムスリッパー』
——『侍タイムスリッパー』についてもお聞きできればと思います。今年8月に雑誌『アニメージュ』で『侍タイ』がコミカライズ化されて連載が始まりました。自分が漫画になるのは、人生においてそうそうない経験だと思いますが。
沙倉 漫画の優子ちゃんに関して言えば、ちょっと美化しすぎちゃうかなと思いました(笑)。でも、自分が漫画になったことに対して、あまり深く考えてなかったです。言ってしまえば、優子ちゃんは演じたキャラクターであって、私自身ではないから、ちょっと違う感覚なんですよね。
——さらに宝塚歌劇団で『侍タイ』が舞台化されることも発表されました。
沙倉 宝塚ということは、要はミュージカルじゃないですか。気持ちを歌に乗せて表現する。それがとても楽しみです(笑)。でも、『侍タイ』の主人公である新左衛門さんや相手役の風見さんはもちろんカッコ良いですけど、どちらかと言えば武骨なタイプじゃないですか。『侍タイ』の登場人物で宝塚の煌びやかな世界に合うのは、田村ツトムさん演じる心配無用ノ介だと思います。そういったところも含めて、どのようにアレンジされるのか気になります。
——沙倉さんはご実家が兵庫県西宮市ですから、宝塚には思い入れがあるかと思いますが。
沙倉 宝塚は子どもの時から観に行ってましたね。大人になってからも『オペラ座の怪人』を観に行ったことがあります。何より私、幼少の頃からずっとバレエを習っていて、毎年発表会が行われていたんですけど、講師が宝塚出身の方だった関係から、2年に1回は宝塚の大劇場を使わせていただいていたんですよ。ただ、私が主役を務めることになった小学6年生の時の発表会は、別の会場だったんですけど(笑)。でも、そういったこともあって、宝塚には思い入れがありますね。
——ちなみに安田監督は宝塚の舞台化に関して、何か仰っていましたか?
沙倉 「『侍タイ』は宝塚にピッタリやと思う」と言ってました(笑)。
——どういうことですか(笑)。
沙倉 もともと「『侍タイ』は舞台向きの作品だ」と常日頃から言ってたんですよ。新左衛門さんが背中を向けた『侍タイ』のメインビジュアルがあるじゃないですか。宝塚の舞台化が発表された際、背景を宝塚の大階段風に差し替えたバージョンの画像をノリノリでX(旧:Twitter)に投稿していました(笑)。
『侍タイムスリッパー』デラックス版では、優子の妄想という形で剣士に扮した沙倉さんがガンマンと対決するシーンも。宝塚に負けないインパクトを放つ。写真集の撮影でも訪れた鳥取砂丘での撮影ということもあり、感慨深かったという。©未来映画社
●『侍タイ』を観てくれたすべての人に感謝!
——ちなみに本日(8月22日)は、奇しくも池袋のシネマ・ロサでの『侍タイ』上映最終日です。ロサは『侍タイ』を初めて上映した映画館であり、それだけに思い入れもひとしおだと思いますが。
沙倉 映画の上映は必ず終わりを迎えるものですけど、ロサさんは「1人でも多くの方に観てもらいたい」と、初公開の2024年8月17日から毎日休むことなく『侍タイ』を上映してくださった映画館なんです。『侍タイ』がここまで大きな作品になったのは、ロサさんをはじめ周りの人たちに支えていただいたおかげです。
ロサさんで初めて舞台挨拶した時、笑顔のお客さんたちが拍手で迎えてくれた光景は、本当に昨日のように覚えていて。それから度々舞台挨拶に立たせていただきましたが、毎回すごい力をもらいましたね。出来れば、お客さん一人ひとりに直接「ありがとうございました」とお伝えしたい。寂しい気持ちもありますが、それ以上に感謝の気持ちでいっぱいです。
——最後に、沙倉さんの今後の野望を教えてください。
沙倉 「美容雑誌のモデルをやってみたい」「ビールのCMに出てみたい」とか、いろいろありますけど、やっぱりお芝居に対する野望が大きいです。
『侍タイ』は日本アカデミー賞をはじめ、いろいろと賞をいただきました。山口馬木也さんが日刊スポーツ映画大賞の主演男優賞を受賞された際、その賞状に『侍タイ』で見せた演技や馬木也さんご自身のキャリアについて、こと細かに触れられていたんです。「きちんと見てくれているんだ」と私まで嬉しくなっちゃって。やっぱり私も女優として何かしらの形で頑張った証を残したい。出来れば、私にピッタリの役で。だから、これからも映画に携わっていきたいです。
<プロフィール>
沙倉ゆうの(さくら・ゆうの)
女優。代表作に『拳銃と目玉焼』(2014年/安田淳一監督)、『ごはん』(2017年/主演/安田淳一監督)、『アナログ・タイムス』(2019年/主演/秋武裕介監督)など。2024年の『侍タイムスリッパー』でヒロインの優子を演じ、『映画秘宝』2024年ベストアクトレス3位に輝く。また2025年に安田淳一監督と共に星雲賞メディア部門を受賞。女優業のほか、京都府下京警察署・京都府南警察署/防犯・交通安全・テロ防止対策ポスター、京都市下京消防署ポスターのポスターモデルを務める。
<写真集情報>
タイトル:『BRILLIANCE』
撮影:安田淳一/発行:Ambree
仕様:A4サイズ・148ページ(表紙含む)
価格:4,400円(税込)+送料370円
「BOOTH」にて発売中
https://ambree.booth.pm/items/7288323