11月2日より上演開始!ダンス劇作家・熊谷拓明さんインタビュー
40年間いろんなことを考えてきたけれど、ずっと僕に寄り添ってくれていたのは心臓だった―。
シルク・ドゥ・ソレイユにて850ステージに立った異色の経歴を持つダンス劇作家・熊谷拓明。ダンスや演劇などの枠を作らず、美術家、照明家、音楽家等と共に作り出す作品を自ら『ダンス劇』と呼び、上演活動を続けている。
40歳という節目を迎えた今年、11月2日(土)より千歳船橋 APOCシアターにて『北の空が赤く染まるとき 四十男がこうべを垂れる』を自身初となる40公演を開催する。憧れている人物は近藤良平さんとイッセー尾形さんだと語る熊谷拓明氏に、今の心境を語っていただいた。
―まずは、本作の公演経緯を教えてください。
2017年に『嗚呼、愛しのソフィアンぬ』を上演し、公演後にスタッフと「2年後に僕がダンスを初めてちょうど25年経って40歳になるんだ」という話をしていたんです。自然とその場で「じゃあ、2年後にここで40日間25公演やれたらいいよね」となり、その時から40日間25公演をやることはほぼ決めていました。
―何か予期せぬ壮大なことが起こりそうなタイトルですが…。
「頭を垂れる」というのは、ガクンと頭がもたれる…、何かありそうな感じがしますよね。当時、38歳だった僕の人生では珍しく生死について考えている時期だったんです。40公演を一人でやることをイメージした時に、「もしかしたら燃え尽きるのかもしれない」という感覚があったのですが、いざ準備を始めてみたら、全くそんなことないです(笑)。今、本番に向けて稽古中ですが、僕自身は俄然元気です。
―38歳の時に思い描いていた40歳の自分はどんなイメージでしたか?
今よりももう少し世の中に僕が出回っていると思っていましたが、そんなに売れてないなって。世の中、そんなに甘くないですね(笑)。
―40歳になってみていかがですか?
節目だから公演はやろうと決めていましたけれど、実際40歳になってみると、気持ち的には、そんなに節目でもないなって(笑)。
30代後半からいろんなことが楽になったつもりでいましたが、様々なしがらみから解放されて、30代の時よりももっと楽になりました。50歳になったらどうなっちゃうんだろう(笑)。
シルク・ドゥ・ソレイユから帰国した時は31歳。誰もそんなことを求めていないのに、主催者像みたいなものが自分の中にあって「しっかりしなきゃいけない」というのがあった。今はもっと周りに甘えられるようになりました。
―帰国時からご自身で活動をしようと決めていたのですか?
昔は、ダンサーとして、何かの作品でピースになることを求めていました。シルク・ドゥ・ソレイユで一つの夢が叶ったと思ったけど、なかなかその状況に満足できなかったんです。舞台に立ってお客様の前でお辞儀をすると、いつも感謝の気持ちが溢れてきますが、公演を続けていると体力的にも精神的にも疲れていく。次第に、客席の拍手が僕個人に向けられたものではなくて、シルク・ドゥ・ソレイユというカンパニーの素晴らしさに向けられた拍手のように感じられてしまって。帰国時から、「小さくてもいいから自分で成し遂げた作品を発表できる人になろう」と決めていました。
自主公演なんて未経験ですから、チケットの発券から何からすべてがイチからで。そういう時って、走り出す勢いや力があるから一気にやれていますが、今考えると面倒臭い(笑)。あの時始めてよかったなと思います。続けられることがありがたいし大事なことで感謝すべきことですが、続けるも何も、走り出さなければ続けられないので。スタートダッシュが必要ですね。
―「やりたい」と思ったことに対してスタートする、走り出しのエネルギーは大事ですね。ずっと創作表現を模索し続けていたそうですが。
自分の表現手法、ダンサーとしての表現力、作品のピースになるよりも自分で表現したいと思っていました。僕は高校生の時にミュージカルを観てダンサーの道を目指したのですが、ミュージカルは感情の起伏で歌い出し、大勢がエネルギーを発する時に踊り出す。僕は自分で脚本を書いていますが、踊り始め、歌い始めのテンションの起伏はなかったんです。最初のソロ公演から舞台上で普通に喋っていて、鼻歌も歌っていましたね。普通に何かしている時に何気なく歌う。それがより僕っぽい。
当時、作品を観てくださった方の感想が、物語に対する感想よりも「なんで喋るの?」「ずっと踊っていればよかったのに、なんであそこで喋っちゃうのかな」と言われることがあって。そう言われると気になっちゃうんです。僕は面白いと思ってやっているけれど、踊りを見に来てくれた人にとっては、踊る前にブツブツ喋り始めたら、ねぇ(笑)。そのバランスを気にして、セリフよりも踊り寄りにしたり。それが自分では気持ち悪い。「どうやった皆様に気に入られますか?」というのを模索していましたね。
―パフォーマーとしてお客様の反応は気になると思います。
エンターテイメントで無くなることはよくないと思うんです。お客様が退屈していても僕は喋り続ける、踊り続ける、そういう風に作品を作って尖っていくという気持ちは、僕の中にはないので。僕のパフォーマンスは大衆性を持ちうるジャンルだと思って続けていますけど、なかなか広まらないですね。
これはもう、いじけることなく続けていくしかない。僕の中では面白いと思ってやっていますが、「なんでチケットが売れないんだ」「なんであの公演が面白いって言われるんだ」とか、昔はたくさんいじけていました。嫉妬もしたし、いじけたりもしましたが、今はあまりしないです。
―それはなぜですか?
作品や人物など嫉妬の対象になっているものを、深く考察した時に想像力がついて、「あの人は僕が我慢できないこと我慢しているからあのポジションにいるんだ」とか「僕が作品を作る時に“ここは譲れない”ということも折り合いをつける幅があるから評価されているんだとしたら、僕には無理だな」と考えるようになったんです。
僕がいじけたり嫉妬していた作品や人物に本当になりたいんだったら、「あの人はこういうことを我慢できるんだ。僕も我慢してみよう」と実践してみて、それでも追いつかなかった時に初めて悔しがるなら健全な競争論だと思うんです。それを、我慢も努力もしないで嫉妬しているだけなのは不健康だなと思ってやめました。できないことを無理矢理やるよりは、他にできることを探した方がいいなと。
―40歳を迎えた今、模索し続けてきた答えは見つかりましたか?
「これが自分のスタイルだ」と決めるよりは、その時に素直に作るものが一番だなと思いました。以前は、バランスを取るためにセリフと踊りの量を試行錯誤していたのですが、それもつまらないと思い、今はその時の流れで演じています。5年前と変わったのは、はっきりとした脚本があること。セリフも情景もト書きも全部、脚本に書いています。自分の中に物語のガイドラインが1つあれば、それに沿って、リハーサルでは何パターンもチャレンジできる。踊る量を抑えたり増やしたり、いろんなことを自分で選べるようになりました。
―本作を通して伝えたいメッセージを教えてください。
25年間、かたくなに庭で踊り続けていた男が、捕まった後は柔軟に自分の踊りを見つけていく。この男が踊る理由は、もしかしたら明るい理由ではないかもしれない。でも、踊るという行為は、男にとって柔軟な向き合い方なんです。
納得できない、理不尽なことに対して、戦わない。柔軟にかわしていこう、踊ってやり過ごそう、その方が滑稽だから。戦うことができる人は戦っていった方がいいと思うけれど、いろんなものとの戦い方が柔軟で滑稽な方が、結末はいいんじゃないかなと。
一つのことを本当に続けようと思ったら、時代と状況によって変化していかなきゃいけない。変化していく中で、自分の中に変わらないものがあると強いですよね。敵を無理矢理作る必要もないですから。柔軟に、でも譲らない。うまくかわす。それが伝わればいいなと思います。
―最後に、野望を教えてください。
本作は、これまでの作品よりもはっきりとしたストーリーがあります。カチッとしているものをカチッと表現するのは違うと思っていて、ここから、いい意味でどのくらい曖昧にできるかに挑戦したいです。40公演、生き続けられる作品にしたい。
これまで僕の作品を観てくださった方に楽しんでいただくのはもちろんですが、40公演あるので、今まで僕の公演を見ることができなかった方々にも見ていただけるチャンスが広がると思っています。ぜひ、会場に足を運んでご覧いただきたいです。
<プロフィール>
熊谷 拓明(Hiroaki Kumagai)
踊る『熊谷拓明』カンパニー主宰/ダンス劇作家
1979年札幌産まれ。小学生時代に観たミュージカルに衝撃を受け、自宅で歌い踊り家族に披露する日々を送る。
2001年に安室奈美恵コンサートツアー『break the rules』にダンサーとして参加。その後、アーティストのサポートダンサーやミュージカル他舞台に出演する一方、国際バレエコンクール参加ダンサーへの振付提供、指導等の創作活動も行う。
2008年より2年半シルク・ドゥ・ソレイユ『believe』に参加。ラスベガスにて850ステージに立つ。
帰国後、自ら演出、振付をするオリジナルの物語を『ダンス劇』と呼び、上演を行う。
2017年から音楽ユニットClariSのコンサートを振付、MCとして参加。2019年にはハロー!プロジェクトからデビューしたBEYOOOOONDSのデビューシングル3作品全ての振付を担当。
(インタビュー・文 出澤由美子)
<公演情報>
「踊る熊谷拓明カンパニー」最新作 一人ダンス劇
『北の空が赤く染まるとき 四十男がこうべを垂れる』
日時:2019年11月2日(土)~30日/25日間・全40公演
会場:千歳船橋 APOCシアター
https://www.odokuma.com/shijuotoko
踊ることが罰せられるようになってしまったある町。
25年間誰にも発見されることなく自宅の裏庭で毎晩踊っていた男が、 1件の目撃情報により警察に身柄を拘束されてしまう。 獄中でも踊りを踊る事を我慢出来ない彼は、 またいつかあの裏庭で踊る事を夢見て『 踊り』にはみえないは自分だけの『 踊り』を探し始める。
誰かに見つけて欲しかったんだ、本当は・・・
熊谷拓明、舞踊生活25周年に挑む25日間40公演の一人ダンス劇。