若手特撮スタッフたちが結集した本格特撮映画『ブラックホールに願いを!』主演・米澤成美&吉見茉莉奈インタビュー

12月6日から池袋シネマ・ロサで公開中の『ブラックホールに願いを!』。
『シン・ゴジラ』やウルトラマンシリーズなどの現場で活躍されている特撮業界の若手スタッフが集結し、8年もの製作期間を費やして完成させた本格的な空想特撮映画である。
西暦2036年。「悪魔博士」と呼ばれるマッドサイエンティストが人工ブラックホールを使って、時の流れが極度に減速した「ボブル空間」を発生させ、全人類に復讐を宣言。それにより「人工縮退研究所」はほとんどの機能を失い、さらに事件解決の鍵を握る吉住あおい准教授は「ボブル空間」に囚われてしまう。研究所の総務部職員で、緊張すると声が出なくなってしまう場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)を抱える伊勢田みゆきは、わずかに残った研究員たちと共に吉住救出に奔走する。伊勢田は以前から吉住に憧れており、「友達になりたい」と思い続けていたのだった——。
渡邉聡監督は『シン・ゴジラ』に感銘を受けて本作を制作したと語る。実際に『シン・ゴジラ』フォロワーらしく、本作は本格的なSF設定に基づいた斬新なビジュアルと世界観が展開していく。深い専門知識と高度なスキルを有したスペシャリストたちの個性、緊迫した状況の中でスピーディーに応酬される専門用語を有した台詞が観る者を圧倒するだろう。
しかし、本作を最も際立たせているのが、主人公の伊勢田と吉住の関係性だ。互いに分かり合えず、分断社会と叫ばれている昨今、「友だちになりたい」と思い続けるひとりの女性の心の機微が物語の軸となったことで、作品全体に奥行きを与えている。SFが科学の方面から人間の在り方を捉え直すジャンルであるのならば、本作はSFと人間ドラマを見事に融合させたことで、日本特撮史に新たな楔を打ち込んだと言える。
今回、渡邉聡監督立ち合いのもと、伊勢田役の米澤成美と、吉住役の吉見茉莉奈の主演お2人にお話を伺った。
<文責>
取材・文◎今井あつし

●お互いの印象
——お2人は今回の作品で初共演ということですが、それぞれの印象をお聞きできればと思います。
米澤 吉見さんって、本当に綺麗な人じゃないですか。初めてお会いした時、「本物の映画女優だ。線が細くて綺麗!」という感じで、こちらが勝手に委縮しちゃって。前に別の作品で共演した女優さんもそうなんですけど、私の中で映画女優さんって、綺麗故に近寄りがたいイメージを持っていて、「思わず変なことを口走って失言したら、どうしよう?」と不安だったんですけど、そういうことはなくて、とても社交的で気さくな方だったので安心しました。
吉見 私はお会いする前から米澤さんが手掛けられた映像作品を観ていたりして、一方的に知ってはいたんですよ。それで米澤さんに対して、なんとなくのイメージは元々あったんですけど、実際にお会いしてみたら、より面白い方だという印象で(笑)。本当に底が見えないというか、掘ったら掘るだけ、いろんなモノが出てきそうな感じの方で、撮影に入るのが楽しみでした。
——最初に対面されたのはホン読みの時だったとお聞きしましたが。
吉見 そうですね。渡邉監督と一緒に衣装に買いに行って、その後に脚本の読み合わせをして、その時に初めて米澤さんとお会いしたんですよね。それで監督が「『シン・ゴジラ』(2016年)を観て、映画を作ることを決意しました。だから、本作の目標は『シン・ゴジラ』です。皆さん、頑張りましょう」と宣言されて、周りの皆さん一致団結した雰囲気になりましたね。
——米澤さんが演じる主人公の1人、伊勢田さんは場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)という人物ですが、最初にこの設定を聞かされた時、どのような感触だったのでしょうか?
米澤 私自身が小さい頃、場面緘黙症でした。ただ自分の経験だけで演じると、やっぱりどうしても齟齬が出てしまうんじゃないかという不安はありましたね。一口に場面緘黙症と言っても、いろんなタイプの方がいるんです。YouTubeでも様々な場面緘黙症の症状を解説している動画がアップされていて、正解はひとつではないんですよね。そういう意味では演じるにあたって難しい部分がありました。だから、監督の「緊張すると、思わず笑い出すところがある」といった演出に対して、自分なりに解釈を見つけていった感じでしたね。
——物語前半で、伊勢田さんが吉住先生に「一緒にご飯行きましょう」と誘おうとして、何度も同じ台詞を繰り返して練習する場面が出てきます。とても微笑ましい場面ではありますが。そこも何か工夫されたのでしょうか?
米澤 いえ、その場面は意外と素で演じてましたね。「自分でも、普通にこういうことやるな」と思ってました。私の場合、人の目があると固まってしまいますけど、人がいないところでは普通に言葉を発することは出来るんです。素に戻る部分と、キュッと固まっちゃう部分のメリハリがあるというか。なので、「ご飯に誘う」練習部分に関しては、もう普通に「自分自身じゃん」ぐらいな感覚で、それほど場面緘黙症は意識しないで演じられたかなと思います。

●みんなに慕われる吉住先生
——その憧れである吉住先生ですが、女性科学者という役柄もあり、吉見さんは監督からクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』(2014年)でのアン・ハサウェイさんのようなイメージを求められたとお聞きしました。
吉見 確か最初の段階で監督からそのように言われて、『インターステラー』を観返して、「なるほど。こういう感じか」と吉住の人物像を作っていきましたね。ただ脚本が大幅に変わっていって、それに伴って吉住のキャラクターも伊勢田さんから一方的に慕われるだけだったのが、男女関係なく誰にでも好かれる人物になって。だから、途中からはアン・ハサウェイの役をあまり意識しなくなりました。
——吉住先生は相手を否定しないですよね。
吉見 人によって態度を変えるではなくて、いろんな人物と分け隔てなく、フラットに接することができる人物になりましたね。なおかつ男っぽいわけではなく、女っぽいわけでもない。ちょうど真ん中のラインを狙って役を作っていきました。
——米澤さんから見て、吉住先生というのはやっぱり魅力ある人物でしたか?
米澤 吉見さんが吉住先生を演じたことによって、本当に女神様のようだと思いましたよね。
吉見 そうなんだ(笑)。
米澤 だって、ただでさえ綺麗で気さくな吉見さんが、みんなに愛される吉住先生を演じるわけですよ。もう本当に女神様みたいだったなと、私は密かに思ってましたね。
——では物語前半で、吉住先生からお土産を渡されるシーンはかなり高揚感があったかと思います。
米澤 やっぱり憧れの人、それも女神様みたいな人から優しく声を掛けられて、お土産としてプレゼントを手渡される。伊勢田さんからすれば、緊張して言葉を交わすのもおぼつかない状態ではありましたが、私としてはその気持ちはすごくよくわかるので、自然に演じ切ることができたと思います。
吉見 最初の撮影段階では、吉住にとって伊勢田さんは大勢の中の1人でしかない感じだったんですよ。すれ違った時に伊勢田さんが一方的に好きになったというだけで、物語においてほぼ関わりがなかった。だけど、脚本が大幅に変更となって、2人の関わり合いが物語の軸となって。特にお土産を手渡す場面はあとから追加されたシーンで、それまでとは異なる距離感と関係性で演じることになりますから、最初「どのように伊勢田さんに接すればいいんだろう?」と若干戸惑いがありました。

●いきなりエンディングだったクランクイン
——お話を聞いていると、脚本は当初からガラリと変わったんですね。
吉見 相当変わりましたね。実は、この映画の撮影は2020年に軍艦島のシーンからクランクインしたんですけど、軍艦島でもう1回撮り直すことになりましたから。
——軍艦島はどのシーンでしょうか?
吉見 ラストで、伊勢田さんと吉住が目覚めるところですね。
——エンディングシーンから撮影が入ったわけですね。そのことについて戸惑いはありましたか?
米澤 撮影前日に打ち合わせを重ねたので、私に関しては特に不安はなかったです。ただ、天気が怪しいとなって、監督のイメージと合わないと話していたのを覚えてます。
吉見 逆に私は不安だったかな。映画は必ずしもシーンの順番通りに撮っていくわけではないものの、やっぱりいきなりラストシーンから入ることに戸惑いはありましたね。読み合わせがあったとはいえ、自分の中で作り上げていなかった部分がありましたので。「監督が大丈夫と言うなら、大丈夫なんだろう」と思ったら、結局撮り直したという。
——帰りの船の中で監督は落ち込んでいて、まるで落ち武者のようだったとお聞きしましたが。
渡邉監督 はい。その場で「ダメかも」と思いました。
吉見 そういう顔してましたよね。
渡邉監督 ラストシーンから撮り始めた無謀さもありますが、その時は自分でもなぜダメだったのかがわからなくて、半年間、苦しんでいました。そもそも自分が描くべき物語は「このような形ではない」と途中で気づいたというか。当初の脚本では、伊勢田さんは「みんな死ねばいいのに」と心に闇を抱えた人物で、かなり妄執の物語でした。それを現状の物語に大きく修正していきましたね。

●「悪魔博士」こと鳥居みゆき
——心の闇と言えば、本作には鳥居みゆきさんが「悪魔博士」と呼ばれる赤城容子役で出演されていて、時間犯罪を起こして人類に復讐を宣言するところから物語が始まります。とてもエキセントリックな役柄でしたが、撮影現場での鳥居みゆきさんの印象を教えてください。
米澤 鳥居さんはテレビで拝見した通り、鳥居さんそのままでした。いろいろとお話していただいて、全て面白かったです。その中でも特に印象的だったのが、携帯電話のトーナメントを行っているというお話で。
吉見 携帯電話選手権の話ね(笑)。
——何ですか、それは?
米澤 鳥居さんは体から電磁波が出るそうで、携帯電話がすぐに壊れちゃうんですって。マネージャーさんに幾つか携帯電話を買ってきてもらって、どの携帯電話がいいのか、ひとつひとつ触って試していって、その中から壊れないものを選び抜いていくとお話されていて、「そんなことあるんだ!」と、とても興味深かったです(笑)。ただコーヒーの件で私、一度粗相をしてしまったことがあって。
渡邉監督 鳥居さんは差し入れにコーヒーがあると喜ばれると、僕が米澤さんに事前に教えたのですよ。それで米澤さんが気を遣って撮影の合間に自販機で缶コーヒーを買ってきて、鳥居さんにお渡ししたのですが、鳥居さんからすれば、何の前触れもなく唐突にコーヒーを差し出されたことにビックリしてしまって、「えっ!? いらないです!」と素っ気なく答えるしかなかったようで(笑)。あれはちょっとした珍事でした。
——そんなことがあったのですね。吉見さんはいかがでしょうか? 劇中、わずかですが、吉住先生と悪魔博士が話し合っている場面も描かれましたが。
吉見 鳥居さんは本当にエンターテイナーでしたね。テレビのあのままの雰囲気を崩さないというか、本当に私たちが好きな鳥居さんのままでいてくれているという感じで。ロケで撮影させていただいた研究所の職員の方たちも鳥居さんとお話できて、とても喜んでいらっしゃいました。サービス精神が旺盛で楽しかったです。
——悪魔博士も、まさに鳥居さんだからこそ成立し得たキャラクターですね。
吉見 特に目の演技が本当にズバ抜けていました。監督の演出もあるのでしょうけど、アップになった時の眼球の動きが、とても際立っていて。もともと大きな目が印象的な方でしたけど、「目の動きだけで、ここまで人を惹きつけることができるなんて、すごい」と思いましたね。
——もともと渡邉監督が鳥居さんの大ファンでオファーされたということですが、どの段階で鳥居さんの出演が決まったのでしょうか。
渡邉監督 悪魔博士というキャラクター自体は最初の脚本には無かったと記憶しています。米澤さんと吉見さんの配役が決まって、クランクインの1カ月ぐらい前に鳥居さんが参加されることが決まったんですよね。
吉見 嬉しかったですね。鳥居さんが『あらびき団』で「ヒット・エンド・ラン」のネタで大ブレイクした頃からテレビで観ていましたから。私の友だちも鳥居さんの大ファンですので、そういった憧れの人と一緒の作品に出られのがすごい嬉しくて、役者をやってて良かったと思いました。
米澤 私も鳥居さんの単独ライブなどのDVDを観ていましたし、学生時代に先輩から「鳥居さんと似ている」と言われたこともあって。たぶん私のお芝居のやり方が鳥居さんに似ているということだと思うんですけど、実際の鳥居さんは本当に才能のある素敵な方で、今回お会いできたのは喜び以外の何ものでもなかったです。

●映像作りとSF世界の住人になった感覚
——米澤さんご自身についてもお聞きできればと思います。米澤さんは役者だけではなく、『ちくび神!』(2020年)という映画を監督され、またYouTubeなどで映像作品を作られています。作り手と演者では意識に違いはありますか?
米澤 自分自身ではそれほど意識せずにやっている感じですね。そもそも映像作りは、ある映画祭で10分間の短編作品を募集されているのを見て、「10分ぐらいの作品だったら、自分でも作れるだろう」と始めたのがキッカケですね。それでハマっちゃって、もう編集作業が大好きなんです。1カ月もの間、延々と編集ばっかりしていたこともあるぐらい。自分の頭の中で思い描いたイメージを作品として具現化させていくことが好きですね。それは役者の活動とはまた違うのかもしれないですけど、私としては根本的に一緒のようなものだと感じていて。だから、これからも役者をやりながら、映像も作っていきたいです。
——今回の現場は本格的な特撮ですので、役者とは別に、監督としても刺激を受けた部分はありますか?
米澤 実際にミニチュアを爆発させるところなど、「特撮って、こうやって作っているんだ!」というワクワク感がすごくありましたね。それ以外でも、普通の映像作品では思いつかないような角度から撮ることもあって、本当に驚くことばかりでした。予告編にしてもテロップにこだわりが感じられて、音楽の使い方といい、キチンと計算されている。それで出来上がった映像は本当にスタイリッシュでカッコ良かったです。
——吉見さんは以前からSF的な作品に出演されていたものの、本格的な特撮作品は本作が初めてとのことですが、ご自身がSF世界の住人になるという感覚はいかがだったでしょうか?
吉見 SF作品に出る前は「どんな感覚なんだろう?」と思っていたんですけど、実際に出てみると、非常に現実と地続きという感覚がありましたね。自分が生きている現実の世界でも映画のようなことが起きてしまうんじゃないかと。このまま科学が発展していけば、人工のブラックホールを使ったテロが起きる可能性もあり得るかもしれない。その可能性は決してゼロではないですよね。だから、現実とは異なる世界という意識はあまりなくて、むしろリアリティのある作品だと感じました。

●初めての特撮現場で
——本作は監督の渡邉さんをはじめ、いろんな特撮の現場に携わっているスタッフさんが多数参加されています。特撮に対する印象に変化はありましたでしょうか?
吉見 現場で若い作り手の方たちが、専門知識や特殊な技術を使って作品を作り上げていく姿を間近で見ていて、印象がガラリと変わりましたね。特撮は歌舞伎などと一緒で、日本の伝統芸能として継承していくべき文化だと思います。けど、本作の特技監督の青井泰輔くんにそう話したら、「伝統芸能にしてはいけないんだけど」と答えられて……。伝統芸能と言うと、限られた人数しか受け継がれない閉じた世界の印象がありますけど、特撮はもっといろんな方が参加できて、映像表現の幅を広げていくのがベストなのでしょうね。なので、「自分も作りたい」と思ってくれる人が増えてくれたら嬉しいです。
米澤 私はあまり特撮映画だと意識して挑んだわけじゃないんですけど、監督やスタッフさんたちが、LINEグループで「ミニチュア模型をいっぱい作りました」といったことをやりとりしていたらしくて、傍から見ててもモノ作りの楽しさが伝わってきました。私自身、今回の映画が初めての特撮現場でしたけど、もし機会があったら、また特撮映画に出てみたいです。それに監督から最初にこの映画の企画を持ち掛けられた時、今とは全然内容が違っていて、私が巨大化して街で暴れるという短編映画だったんですよ。
——そうだったんですか!
米澤 そうなんです。だから、自分で作ってみても面白いかもしれないですね。グリーンバック撮影などを使って、「ガー!」と暴れてみたい。
——では、最後にお2人の野望を教えていただけますでしょうか。
吉見 実は私、総合格闘技がすごく好きなんです。コロナ禍の時に格闘家の方がYouTubeを発信されているのを観て、そこからハマって。大晦日はさいたまスーパーアリーナで格オタ友だちとRIZINを観戦するのが恒例になっています。見るのが大好きなんですけど、実際にやるのも大好きで、キックボクシングだけではなく、ブラジリアン柔術も習っていますね。全然上手くならないですけど、せっかくなら格闘技の技術を演技に活かしたい。欲を言えば格闘家の役をやりたいので、オファーしてくれるのを待っています。
米澤 私は演劇などでは満遍なくいろんな役をやらせていただいてるんですけど、映像作品だと、どうしても今回の映画のように寡黙な役やいじめられる役といった、大人しい人物を演じることが多かったんです。今後もし映画に呼ばれるとしたら、それまでは全く違った役を演じてみたい。せっかくなら悪魔博士のような悪役をやってみたいです(笑)。

<米澤成美さん・プロフィール>
米澤成美(よねざわ・なるみ)
人工縮退研究所総務部職員 伊勢田みゆき役。1987年12月24日生まれ。岩手県出身。舞台、映像作品などで活躍する。自身のプロデュース公演に米澤成美一人芝居『よね牛の1人でやってみた』がある。『サイキッカーZ』(2016年)、『つむぎのラジオ』(2016年)ほか。
<吉見茉莉奈さん・プロフィール>
吉見茉莉奈(よしみ・まりな)
人工縮退研究所 縮退科学研究拠点准教授 吉住あおい役。1990年8月10日生まれ。愛知県出身。主演作は『ナナメのろうか』『啄む嘴』、『INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部』など。上映イベント「映画をテイクダウン!」も定期開催中。

<作品スペック>
『ブラックホールに願いを!』
(2025年/116分/日本)
監督・脚本・編集:渡邉聡/特技監督:⻘井泰輔
出演:⽶澤成美、吉⾒茉莉奈、斎藤陸、濱津隆之、⿃居みゆき、螢 雪次朗 ほか
配給協力:Atemo/製作:STUDIO MOVES
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池袋シネマ・ロサ公開中! また全国順次公開予定










