映画『風の色』主演・古川雄輝インタビュー
※本インタビューはWebサイトのみの掲載になります
『猟奇的な彼女』、『ラブストーリー』、『僕の彼女はサイボーグ』などのヒット作で知られるクァク・ジェヨン監督の最新作『風の色』が1月26日(金)に公開される。
流氷の北海道・知床と、桜舞い散る東京を舞台に、同じ容姿の2組の男女が織りなす幻想的でミステリアスなラブストーリー。主演の古川雄輝さんはドラマ「イタズラな Kiss〜Love in Tokyo」での人気から中国版ツイッター「Weibo」において158万人を超えるフォロワー数を誇る。昨年12月には世界190カ国で配信されたNetflixドラマ「僕だけがいない街」に主演し、3月公開の映画『曇天に笑う』に出演する。ヒロインの藤井武美さんは公募オーディションで約1万人の中から選ばれた。
公開を控え、1 人 2 役のマジシャンという難しい役どころを演じた古川雄輝さんに撮影を振り返っていただき、お話をうかがった。
―出演のオファーを受けたときの気持ちをお聞かせください。
当時、すでに海外の作品にいくつか出演していましたが、クァク・ジェヨン監督の作品に主演できると聞き、うれしく思いました。
―主人公の涼と隆という一人二役。しかもマジシャンの役です。かなり難しい役どころだと思いますが、演じる上で不安はありませんでしたか。
隆と涼はドッペルゲンガー(※1)という比較的近い人物で、性格が全く違うわけではありません。監督から「そんなに差を出さなくていい」と言われていましたから、一人二役に関して、あまり不安はありませんでした。
しかし、マジシャンは違います。レベルの高いマジックよりも、簡単なマジックこそ手の動かし方が大切。例えば、手をパッと開くより、指を1本ずつ開く方がマジシャンらしく見える。見せ方がポイントだと思い、プロの手の動かし方を自分なりに研究しました。指導をしてくれたマジシャンの方々から「自信を持ってやるように」と言われたので、「自分が一番うまい」と思うように心掛けました。
※1 ドッペルゲンガー:自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種。自己像幻視。(大辞林 第三版より)
―どのマジックも指先までしなやかで、あざやかでした。かなり練習したのではありませんか。
コインを手の上で転がすコインロールはマジックの基礎です。手のひらのすき間を埋めてくれるので、クランクインの2週間くらい前から毎日、練習しました。しかし、他のマジックは監督が来てからその日、何をするのかが決まります。作品で披露したマジックのほとんどは、撮影前の20分くらいで練習しました。一つ一つは簡単に見えますが、限られた短い時間に練習しただけで披露するのはハードでしたね。
―メインのマジックは北海道・知床に作られた大掛かりな巨大セットで行われた水中脱出です。スタントなしでこなしたと聞きました。
本物のチェーンを巻いて、水の中に入って撮影しました。もちろん事前に解き方を教わっていますが、水中撮影に慣れているわけではなく、ましてやチェーンマジックは初めて。チェーンを巻かれて、箱に入り、水の中にどぼーんと落とされて、芝居をするのはかなり難しい。しかも、水中に関しては一発OKではなく、何度も入ったり出たりするので、そのたびに水圧がかかり、身体に悪いのです。低体温症と過呼吸、酸素不足になり、倒れてしまいました。僕は役者を8年していますが、こんなに大変な作品は経験がなく、今後もこの過酷さを超える作品はないと思います。
―氷風呂に浸かるシーンがありました。あのシーンも過酷な撮影だったのではありませんか。
氷風呂の氷は普通ならプラスチックの氷ですが、本物の氷を使っています。融けてしまうので、可能な限りお湯の温度を下げてから、一気に氷を投入。融ける前にすぐに入りました。しかし、一瞬で0度以下の水温になるので、とても大変でした。
―3月10日にクランクインし、札幌から小樽、網走、知床まで縦断しながら撮影して、その後、関東に移動して、4月末にクランクアップと撮影は延べ50日に及びました。
行きっぱなしでしたから大変でしたね。しかし、監督とご飯を食べに行くといった楽しい思い出もたくさんできました。大変ながらも楽しいこともいろいろあった作品でした。
―リアルに撮影した流氷のシーンから大自然の美しさが伝わってきました。実際にご覧になっていかがでしたか。
初めて見ましたが、「おお!」と声をあげてしまいそうなくらい、きれいでした。流氷を見に行く機会は滅多になく、流氷が見られるギリギリの時期でしたが、見ることができて本当によかったです。監督はこういった自然の風景を撮るのがお上手です。桜の映像もありましたが、海外の方が作品を見て、日本の美しい風景を味わえるのも、この作品の魅力だと思います。
―撮影スタッフは日韓混成チームでした。日本人スタッフだけの現場と違いはありましたか。
中国やイギリスのスタッフとの混成は経験ありますが、韓国の方とは初めてでした。お国柄による違いはありますね。上下関係が日本よりも厳しい国なので、アシスタントの方に話しかけたら、「主演の人がアシスタントに話しかけてくれることは、韓国ではありません」とびっくりされました。また、日本では冷たくなったロケ弁は当たり前ですが、今回の現場ではケイタリングで温かいご飯を出していただき、驚いていたら、「韓国では当たり前」と言われました。
やっていることは同じですが、細かい差が出てくる感じ。それは脚本にも表れていました。韓国の方が脚本を書いているので、韓国文化の感覚や要素が非常に多い。それを日本語に訳して日本人が演じているので、日本人離れしたセリフやテイストになっている。マジックとドッペルゲンガーだけでもSF感がありますが、韓国と日本の感覚が混ざり合ったことで、より強くSF的要素を感じられる。邦画にはない空気感があり、洋画に近いと言えるかもしれません。どんな作品かと聞かれたときには、「邦画を見に行くのではなく、洋画のつもりで見に行ってください」と話しています。
―本作は昨年7月、韓国・富川国際ファンタスティック映画祭で特別招待作品に選ばれ、古川さんはクァク監督、藤井武美さんとともにレッドカーペットを歩きました。そのときの気持ちをお聞かせください。
僕は中国でもレッドカーペットを歩いているので、それほど緊張はしませんでした。上映会で集まってくれたみなさんと一緒に作品を見たのですが、そのときのみなさんの反応がどんな感じになるのか、そちらの方がどきどきしましたね。韓国人のファンの方も来てくれましたが、日本からも多くの方が応援に来てくれたのです。今年、日本でファンイベントをしたのですが、そのときは韓国からたくさんの人が来てくれました。異国でも応援に来てくれるというのはありがたいですね。
クァク・ジェヨン監督はラブコメがお得意なので、コミカルな要素をちょこちょこ入れているのですが、日本人のユーモアとはちょっと違う。でも韓国の方にはそれが面白いのでしょう。けっこう受けたのです。国によって見方や反応が違う。文化の差を感じました。この作品のどこをいちばん見て、感じ取ってほしいですかと聞かれたら、国によって答えが変わってきます。1つに絞れません。
―古川さんは先月30歳になったそうですが、今後の野望をお聞かせください。
20代と30代では、役柄ががらりと変わると思っています。そうなると演技の手法も変わってくる。30代で身につければ、大人の役は30代、40代、50代でもできる気がします。30代のうちに大人の役をたくさん経験しておきたいですね。そして、これからも海外の作品もどんどんやっていきたいと思っています。
古川雄輝
1987年12月18日生まれ。東京都出身。7歳でカナダへ。以後11年間海外で過ごす。帰国後、慶應義塾大学へ進学し、2009年にはミスター慶應コンテストでグランプリに輝く。2010年、「キャンパスターH★50with メンズノンノ」で演技力を高く評価され、審査員特別賞を受賞しデビュー。2013年に主演を務めたドラマ「イタズラな Kiss〜Love in Tokyo」(CS・BSフジ)は中国で大ヒットを記録し、同国をはじめとしたアジア圏でも広く支持を集めている。主な出演作品に、ドラマ「5→9~私に恋したお坊さん」(15/CX)、NHK 朝の連続テレビ小説「べっぴんさん」(16)、映画では『脳内ポイズンベリー』(15)、『ライチ☆光クラブ』、『太陽』(16)などがある。昨年12月には世界190カ国で配信されたNetflixドラマ「僕だけがいない街」に主演、そして映画『曇天に笑う』(3月21日公開)、『となりの怪物くん』(4月27日公開)を控える。
『風の色』
<STORY>
「もし、別の次元にこの世界とまったく同じ世界が存在し、そこに自分とまったく同じ人間が生きているとしたら。そして、その二つがある瞬間に、つながってしまったら……」。人はなぜ生き、そして愛するのか。流氷の北海道・知床と東京。そこで生きる二組の男女。二つの世界が交錯し、結ばれる愛の先には……。 人間の存在の本質を、ミステリータッチで紡ぎながら贈るラブストーリー。1月26日(金)TOHOシネマズ 日本橋他、全国ロードショー!
監督・脚本:クァク・ジェヨン
出演:古川雄輝、藤井武美、石井智也、袴田吉彦、小市慢太郎、中田喜子、竹中直人
英題:Colors of Wind
主題歌:華原朋美「風の色」(UNIVERSAL J)
挿入歌:Professor Green /Read All About It (Feat Emeli Sande) (USM JAPAN)
原作小説:「風の色」著:鬼塚忠、原案:クァク・ジェヨン(講談社文庫刊)
マジック監修:Mr.マリック
2017/日韓合作/日本語/カラー/5.1ch/シネスコ/119分
配給:エレファントハウス/アジアピクチャーズエンタテインメント/カルチャヴィル
ⓒ 「風の色」製作委員会
公式サイト:https://apie.jp/movie/kazeiro/
<インタビュー・文:堀木三紀 撮影:出澤由美子>