『ダイ・ビューティフル』ジュン・ロブレス・ラナ監督オフィシャルインタビュー

“トランスジェンダーも、同じ一人の人間なんだということを伝えたいと思いました”

7月22日(土)新宿シネマカリテより公開となるフィリピン映画『ダイ・ビューティフル』。
本作の公開にあわせ、ジュン・ロブレス・ラナ監督のオフィシャルインタビューが到着しましたのでご紹介します。

ジュン・ロブレス・ラナ監督

作品に込められた思いや、製作に至った理由、トリシャの人生を描く上で監督が表現したかったもの…。映画に関することから、ストレートともゲイとも違うトランスジェンダーならではの苦悩、興味深いフィリピンの葬式文化について幅広く語ってくださっています。ぜひお読みください!


―この映画を作ったきっかけを教えてください。

2013年にNYで結婚式(※)を挙げた翌年、結婚1周年のパーティをした後の事でした。フィリピン人のトランスジェンダー、ジェニファー・ロードさんが米海兵隊員に殺害されるという事件が報道されたのです。その裁判は3時間に渡って全国放送され、多くのフィリピン人が注目しましたが、米兵への判決は軽いものでした。
私が悲しかったのは、この事件後SNS等で「トランスジェンダーは殺されて当たり前だ」といった差別的な発言が多く見られたことです。ジェニファーさんのようなトランスジェンダーを含め、セクシャル・マイノリティでもみんな同じ一人の人間なんだということを伝えたいと思いました。
キリスト教の中でもカトリックの強い影響下にあるフィリピンでは、同性愛や性転換は罪になります。そのため、多くの人が「トランスジェンダーとは何か」をよく理解していなかったのです。そういった人々の理解を深めたいと思い、『ダイ・ビューティフル』を作ろうと思いました。
※ジュン・ロブレス・ラナ監督は、プロデューサーのペルシ・インタランさんと2013年にNYで結婚。現在は孤児を引き取り二人で育てている。

―どのようにトリシャの波乱万丈な人生を構想したのですか?

孤児を引き取って育てたり、自分の望んだ姿で葬式をすることに親から反対されたりといった話は、実際にトランスジェンダーの人々に取材をして聞いた話を基にしています。トランスジェンダーであるトリシャは特別な存在ではなく、他の人と同じ一人の人間として表現したかったので、頭の中で考えたことより実話を基にした方が人間的に説得力をもたせられると思いました。
これは取材をして聞いた話ではありませんが、トリシャが嫌がる娘を無理やりミス・コン女王に育てようとして反発されるというのも、トリシャを普通の女性、普通の親として表現したかったために入れたシーンです。子供に自分の夢を託す親ってよくいますよね。世の中に完璧な母親はいないように、トリシャも完璧ではないことを伝えたかったのです。

―原案は悲しい実話なのに、明るく表現されていますよね。

シリアスな映画にしなかったのは、悲劇が起きた時こそ、ユーモアの精神が重要だと伝えたかったからです。フィリピンはよく台風や地震などの自然災害に遭います。そういった時でも、私たちはユーモアを持って明るく立ち向かうことで乗り越えてきました。ユーモアがないと悲しみに暮れるだけで、立ち向かうことはできないのです。そのため、トリシャも悲劇に打ちひしがれるのではなく、明るく笑いにかえて乗り越えていくという人物像になりました。

―“日替わりセレブメイク”の発想も実話に基づいているのですか?

これはオリジナルです。トリシャが日替わりセレブメイクを死化粧にしたいと遺言を残したのは、もちろんタイトルにあるように「美しく死ぬ」「死んでも美しくいたい」というミス・コン女王としての誇りでもありますが、実は父親との関係も深く関わっています。持って生まれた身体に違和感を持っているトランスジェンダーのトリシャにとって、別の姿に「変身」することと、その姿を「認められる」ことは重要なことです。さらに、父親にカミングアウトした“トリシャ”としての自分を拒絶され、家を追い出されたという悲しい過去がトラウマとなって彼女の心の奥底にありました。「自分ではない別の誰かに変身すれば、父親に認めてもらえるかもしれない」。そんなトリシャの小さな願いが込められた遺言だったのです。

―トリシャが変身するのが「海外セレブ」なのも、理由があるのでしょうか?

フィリピンでは「美しい」ということが非常に重要視されます。本編でもミス・コンをテレビで生中継している場面があったと思いますが、フィリピンでは各地で頻繁にミス・コンが開催されていて注目度も関心も高く、美意識の高いフィリピン人にとって「美しさ」で認められるということはとても誇り高いことなのです。そのため「美しい」と世界中の人達から認められている海外セレブに変身すれば、父親からも認めてもらえるのでは?美しいと思ってもらえるのでは?…そんなトリシャの切ない願望を、ユーモアを持って明るく表現したかったのです。

―1週間もお通夜をするのはフィリピンではよくあることなのですか?

基本的には4~5日ですが、1週間はよくあります。長くやればやるほど、ドネーション(日本で言う香典)がもらえて、そのお金で故人のお墓を作れるということで、貧しい家庭の方が通夜は長くなる傾向があります。場合によっては2週間近く通夜が続くこともあります。

―そんなに長くやって死体は腐らないのでしょうか?

ただ棺に入っているだけだと腐ってしまうので、薬品漬けにしてガラスケースの中に入れます。先ほど貧しい家ほど通夜を長く行うと話しましたが、当然お金がないと薬品などをきちんと揃えられません。年中暑い国ですし、腐敗臭がすることもありますよ。

―本編で「死体が溶けちゃう」って言っていましたが…。

あれはジョークです(笑)実際に言われるジョークなんですよ。フィリピンのお通夜は笑いに満ちていて、大抵みんなが泣くのは初日と最終日だけです。それ以外は、たくさんの食事をみんなで囲んで、わいわいとパーティみたいな雰囲気です。「亡くなった人を一人にしない」という風習があるので、親族や友人はそこで寝泊りしてずっと一緒にいます。もう1つ、フィリピンのお通夜の特徴としてギャンブルもあります。カジノ以外でギャンブルをすることは法律で禁止されておりますが、お通夜をしている時だけは許されるので、親族でも友人でもない人がギャンブルをしに紛れ込んでいることもありますし、ギャンブルをしたいがために長く通夜をやることもあります。

―SNSなどの反応を見て、本作公開以降社会の認識は変わったと思いますか?

とても変わったと思います。ジェニファー・ロード事件の時に差別的な発言をしていた人が、公開後はトランスジェンダーに対して理解ある発言をすることもありました。作品公開前はあまり世間でトランスジェンダーの話題が挙がることはありませんでしたが、公開後は誰もがトリシャのことを話していました。また、トリシャを演じていたパオロが2~3ヶ月ほど前(2017年6月29日現在)に男性と手を繋いでいる写真を自身のInstagramに載せ、“彼氏”がいることをカミングアウトしました。私も知らなかったので驚きましたが、この告白に対しても好意的な反応が多く見られたのも嬉しかったです。隣国タイなどと比べカトリックの教えが根強く、性転換・同性愛への理解や制度化がなかなかされにくいという現状はありますが、この作品を多くの方に見てもらえたことにより、フィリピン社会の認識を変えるのに役立ったと実感しています。

―楽しいお話をありがとうございました。最後に一言お願いします。

処女作『In the Naval of the Sea』を福岡の映画祭で上映してもらいましたし、『ある理髪師の物語』でも東京国際映画祭でお世話になっていたので、そんな中ついに日本の劇場での上映が決まり、本当に嬉しいです。

ジュン・ロブレス・ラナ監督

【ジュン・ロブレス・ラナ監督プロフィール】
フィリピン映画界の巨匠マリルー・ディアス=アバヤに師事。孤独なゲイ老人の日常と愛犬ブワカウとの交流を名優エディ・ガルシア主演で描いた処女作『ブワカウ』(12)は米アカデミー賞外国語映画賞のフィリピン代表作品にも選ばれ、続く『ある理髪師の物語』(13)ではフィリピン映画として初めてユージン・ドミンゴに第26 回東京国際映画祭最優秀女優賞をもたらした名監督だ。本作でも苦難を前にした人間たちの逞しい人生讃歌を巧みな技術によって描き出し、最優秀男優賞に加えて観客賞のW 受賞をもたらした。


『ダイ・ビューティフル』
2017年7月22日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

ダイビューティフル

© The IdeaFirst Company Octobertrain Films

<あらすじ>
“ミスコン女王”として名を馳せるトランスジェンダー、トリシャ・エチェバリアの笑いと涙に満ちた数奇な人生を描いた物語。突然亡くなってしまった美女コンテストの優勝者トリシャの親友たちが、埋葬前に幾夜も行われる儀式で、毎夜異なるセレブのメイクをして逝きたいとうという彼女の最期の願いを叶えるため、彼女の人生を思い起こしながら奔走する――。

監督/プロデューサー/原案:ジュン・ロブレス・ラナ
出演:パオロ・バレステロス、ジョエル・トーレ、グラディス・レイエス、アルビー・カシノ、ルイス・アランディ、クリスチャン・バブレス、イナ・デ・ベレン、I・C・メンドーサ、セデリック・ジュアン、ルー・ヴェローゾ、イザ・カルザド、ユージン・ドミンゴ
エグゼクティブ・プロデューサー:リリィ・モンテヴェルデ、ロッセル・モンテヴェルデ、ペルシ・インタラン
プロデューサー:ジュン・ロブレス・ラナ、フェルディナンド・ラプス
ライン・プロデューサー:オマール・ソルティハス
脚本:ロディ・ベラ 撮影監督:カルロ・メンドーサ 編集:ベン・トレンティーノ
作曲:リカルド・ゴンサレス プロダクション・デザイナー:アンヘル・ディエスタ 日本語字幕:佐藤恵子
制作会社:アイディアファーストカンパニー、オクトーバートレインフィルムズ、リーガルエンターテイメント
宣伝協力:太秦 配給:ココロヲ・動かす・映画社〇
© The IdeaFirst Company Octobertrain Films
公式サイトはこちら→https://www.cocomaru.net/diebeautiful

2017-07-21 | Posted in NEWSComments Closed