『午後8時の訪問者』を徹底解説! ぷらすと番外編トークイベントレポート

カンヌ国際映画祭で2度のパルムドール大賞のほか、数多くの賞を 獲得している世界的な巨匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督。
異例の7作品連続カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品となった彼らの最新作『午後8時の訪問者』はヒューマントラスト シネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて大ヒット上映中。
Twitterの感想にも「誠実に生きる人々に向ける 監督の眼差しはいつもにまして素晴らしい!」「上質なサスペンスにして、ダルデンヌ兄弟らしい人間の揺れ 動く心を捉えた秀作」といった監督の手腕への絶賛のコメントが多数あがっています。

大ヒットを記念して映画解説者の中井圭さんと映画評論家の松崎健夫さんによる『午後8時の訪問者』トークイベントが開催されました。
カンヌのパルムドールを二度受賞した、ダルデンヌ兄弟の作品製作の秘密に迫ります。

『午後8時の訪問者』ぷらすと番外編トークイベントレポート

© LES FILMS DU FLEUVE – ARCHIPEL 35 – SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINÉMA – VOO et
Be tv – RTBF (Télévision belge)

撮影のタイミングが合っていて、ずれている?!
ダルデンヌ作品のカメラ位置と撮影の秘密が明らかに!

松崎さん:よくダルデンヌ兄弟は、手持ちカメラや、ワンシーンワンカットが多いことからドキュメンタリーのようだと言われますが、元々はドキュメンタリー映画を作っていたことにも起因すると思います。でもドキュメンタリーはどう動くかわからない対象物をカメラが追うからタイミングが合わないはずなんです。でも突然動く人物や起こる出来事をカメラが追いかけているのに、実はびっくりするほどキレイに、“居てほしい位置”に人物が映っている。それで、かなり計算してるんじゃないか?とずっと思っていてお会いした時に質問してみたら、やはり、俳優を入れてのリハーサルも、カメラだけのリハーサル もかなり重ねているとおっしゃっていましたね。

中井さん:でも、僕はダルデンヌ兄弟のカメラ位置はやっぱり悪いと思うんです! 『ジュラシック・パーク』などでは“画面で次にどんなことが起こるか=視線誘導”をカメラが先回りしていくんですが、それが全くない。次に何が起こるか予測できないんです。だから、つぎに何が起こるか全く掴めない観客は、その場で一緒に目の前の出来事を目撃しているような感覚になります。ダルデンヌ兄弟はそれを「良い、“悪いカメラポジション”を探している」と言っていました。

中井圭さん(映画解説者)

中井圭さん(映画解説者)
© LES FILMS DU FLEUVE – ARCHIPEL 35 – SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINÉMA – VOO et
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ダルデンヌじゃなければ全く違う作品になっていた!?
ベルギー、ひいてはヨーロッパが現在抱えている問題もあぶり出す

中井さん:『午後8時の訪問者』で感じられるのは人の断絶、隣人に対する無関心。こういう題材の作品はほかにもあるし、ほかの監督が撮ったら、医療問題やすぐ隣に住んでる人が分からない怖さとかにフォーカスした全く違う映画になったんじゃないでしょうか。でも、世界を見渡してみるとイギリスやアメリカが移民・難民をシャットアウトしようとしていて、「これからの世界はどうなるの?」という思いを我々は抱えています。そこで、ダルデンヌ兄弟は『午後8時の訪問者』で主人公が開けなかった扉を国 境に例えて、他者に対する不寛容=移民に対する不寛容を描いたんですよね。ほかの監督ならこうはならなかった。

松崎さん:元々ベルギーという国は、ベネルクス三国という小さな国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)の間で国境線が色々変わったり、多様な人種がやってくるのを受け入れて同調する国民性だったそうです。けれど最近はベルギーだけでなくヨーロッパ全体に言えることですが、移民に対して不寛容になってきている。それを監督たちは感じているから、いま映画にしなければいけなかった。それで、被害者は、金髪の白人ではなく、アフリカ系の黒人の移民だったんですね。

松崎健夫さん(映画評論家)

松崎健夫さん(映画評論家)
© LES FILMS DU FLEUVE – ARCHIPEL 35 – SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINÉMA – VOO et
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ダルデンヌ兄弟とケン・ローチの共通点と相違点を分析

中井さん:ケン・ローチとダルデンヌ兄弟が描き出すテーマは少し似ていますよね。ケン・ローチも引退宣言を撤回してまで、いまの“世界の不寛容や無関心”への警鐘を映画にしなければならないと思って『わたしは、ダニエル・ブレイク』を撮ったわけです。

松崎さん:ケン・ローチはイギリス人だからか、ユーモアを入れて、人のたくましさを描きますね。ダルデンヌはユーモアよりも温かさを感じる。とても厳しい現実を描くけど、最後には必ずほんの少しだけれど希望を見出す。ケン・ローチの作品は温かく終わることも あれば、すっごいバッド・エンドもあるんだけど(笑)。今回の主人公は自分のペースで利己的に生きていたのが、ラストシーンでおばあさんと一緒に歩いていますよね。他人と一緒のペースで歩こうとする、 彼女の生き方が変わったということです。ダルデンヌ兄弟は人に寄り添う やさしさを見せてくれます。

中井さん:映画は、たとえエンターテインメントであっても、世界を映し出してくれる。だから、いま自分たちがどんな世界に生きているかを肌で感じる素晴らしいものだと思っています。『午後8時の訪問者』はまさに世界を知る入り口になる作品。こういう作品を観る方がもっと増えたら嬉 しいですし、ぜひオススメしてほしいですね。

ダルデンヌ作品の秘密を読み解くことで現在の世界が抱える問題をあぶりだした『午後8時の訪問者』。これを見れば世界が分かる!?
今の時代が描かれている、今見なくてはいけない映画です。

【イベント概要】
日時:4月 16 日(日) 14:00の回終了後/トークイベント 15:46~16:10
場所:新宿武蔵野館スクリーン1(〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目27−10 武蔵野ビル 3F) 登壇者:中井圭さん(映画解説者)、松崎健夫さん(映画評論家)

第 69 回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督最新作

『午後8時の訪問者』

謎の死を遂げた“名もなき少女”に何が起こったのかを探るサスペンス。
「もしかして何かが変わったのではないか」と思わせる人生の転機はどこにでもある。その転機を探るうちに危険に巻き込まれ、意外な真相にたどり着く…。
これまでにない極上のヒューマン・サスペンスが誕生。
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか大ヒット上映中!!

監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:アデル・エネル、オリヴィエ・ボノー、ジェレミー・レニエ、ルカ・ミネラ、オリヴィエ・グルメ
© LES FILMS DU FLEUVE – ARCHIPEL 35 – SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINÉMA – VOO et Be tv – RTBF (Télévision belge)
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/pm8/

2017-04-21 | Posted in NEWSComments Closed